黒田は西軍の裏切りを企み、東軍へ寝返ろうとしていたらしい。だが、それを大谷が見逃す筈もなく、結果としては石田に手枷をつけられた。我としては毛利家が安泰であれば、黒田はいてもいなくてもどちらでも関係ない。まあ、いないよりはマシかもしれないが。それにも関わらず、穴蔵へと送られた奴を監視しろと大谷に頼まれた。断ることも出来たが、あえて我はそうしなかった。
それからは暇で仕方がない時に、穴蔵へと様子を見に行っていた。毎度の如く、黒田は脱走を謀っており、鍵はどこだとうるさかった。我が輪刀を振りかざすと「何故じゃぁぁぁあ!!」とお決まりのように叫ぶ。運の無いやつよ。
だが、最近はどうだ。軍の奴と共に穴堀に勤しんでいる。我が様子を見に行くと嫌そうな顔はするが、それだけだ。腕にぶら下がる鉄球にも慣れたのか、今や腰掛けに使う。
脱走を謀ることがなくなるということは、我が一々様子を見に来る必要がないということ。暇で暇で仕方ない時にしか来ないとはいえつまらないものがある。

「おい、黒田。どういうつもりだ」
「は?お前さん一体何を言ってるんだ?」
「しらばっくれるでないわ。我にはお見通しぞ」

そうだ、きっと黒田は我を油断させるつもりだ。つまらないと思わせて、出来るだけ近付かないようにさせるという次第であろう。愚かだ。我に策で挑もうなど。

「それとも…その枷に情でも沸いたか?外す努力がないと見える」

鼻で笑ってやる。すると怒りまたは図星からか、顔を真っ赤にした。従順なことは大事だが、噛み付かぬのも面白くない。たまに焚き付けてやるのもいいだろう。更に挑発してやろうと口を開こうとしたが、それは黒田の一言により呆れた表情を作るだけとなった。

「そうだな…ちょっとは情もあるかもしれんな」

諦めたように笑う黒田に無性に苛立った。本気で諦めたのかもしれないと思わせる態度が尺に障る。とりあえずその日は一発輪刀で殴っておいた。お馴染みの「何故じゃぁぁぁあ!!」という声に何故か安心感を覚えた。


それから数ヶ月経ち、久方ぶりに穴蔵へと足を運んだ。前に訪れた時よりも、日があいているのは、黒田が脱走する準備でもしていればと考えたからだ。我が油断することで、黒田が少しでも噛み付こうとすれば、そこを叩いてやればよい。
そう思って足を運んでやったというのに、黒田は以前と変わらぬままであった。眉間に皺が刻まれる。不愉快極まりない。殴るだけでは効かないようだ。

「ゲッ…しばらく顔を見んと思ったらまた来たのか。小生は脱走なんて考えてないぞ。」

だから帰れ、と言うように手を振られる。何故こうも簡単に諦める。手枷は不便じゃないのか、穴蔵は嫌じゃないのか。こんな女っ気がない場所に、美丈夫の我がいるのに襲いたいなどと思わんのか。考えても全く黒田の考えはわからない。苛立ちが頂点に達し、思いをぶつけてやることにする。

「貴様はその手枷が外された腕で、我を抱きしめたいとは思わないのか!!」

大きな声で叫ぶと、我の言葉は穴蔵内で何度もやまびこのように響いた。
黒田の驚く顔を見れたからか、思いを伝えたからか、気分は爽快であった。

「毛利…お前さん…」

「…フンッ」

「頭でも打ったか?」

黙って輪刀を振りかざす。待ったをかける黒田の顔は青ざめていた。せめて少しでも顔が赤ければよかったものの、本気で心配しおって。

「ちょっ、小生何か悪いこと言ったか!!?ま、待てって!!え、あ、何故じゃぁぁぁぁぁあ!!!」

今度は鈍い音が穴蔵に響いた。
とりあえず気絶した黒田の腹の上に座り、今後の対策を立てることにした。が、倒れている黒田の手枷と胸の間に空洞があることに気付いたので、そこに収まってみると意外と心地よくそのまま寝ることにした。次は屋敷の縁側で日輪の光を浴びながら寝たいものだ。



あとがき

黒←毛が好きです。
簡単なこの話の説明をするとすれば、初めは興味なかったけど、何度も話すうちに好きになっちゃった感じです。
文章に入れたかったけど、どうしても毛利さんが乙女になってしまいそうで無理でした…。

黒毛の毛利さんは誘い受けがいいです!





「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -