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ふと閉じていた目を開けると、見たことのない風景が辺りに広がっていた。
「ここはどこだろう」
誰かがいるわけではないのに呟く。自分の周りは花だらけで今までいた血生臭い世界とは別の場所らしいということはわかった。
サアッと吹く風が気持ちよい。沢田は軽く伸びをした。

風に紛れてカサカサと花を踏む音がした。どこからかはわからない。沢田は妙な胸騒ぎを覚えて耳を済ました。
やがて黒い人影が姿を現した。生憎逆光で顔は見えないが、この花畑には不釣り合いな黒に身を包んだ人物だ。
そう。まるで沢田が籍を置いている世界のような。
「誰ですか」
その人影は答えない。脳内は危険信号を発信しているが体が言うことを聞かない。
遂にその人物は沢田の目の前にまで来た。その距離約20cm。いくら逆光とはいえ、はっきりわかった。
「あなたはっ……」
その人物はニタリと笑い、黒く冷たい物体を沢田のこめかみにあてた。
「久しぶりだね。君を殺しに来たんだ。沢田綱吉」
「ヒバリさっ」
言い終わる前にヒバリはトリガーを引いた。ズガンと鈍い音がした。
ガバリ、と起き上がった。全身汗びっしょりだ。気持ち悪い。
沢田はそっと体に貼り付いているシャツを引っ張る。
悪夢だ。最近の忙しさでベッドに入ると直ぐに寝てしまうため夢という夢を見る暇すらなかった。
久しぶりに見た夢が自分が殺される夢とは目覚めが悪すぎる。
ただの夢だと思いたいが、動悸が止まらない。とりあえずまだ起きるまで時間があるので震える体を動かして二度寝しようとふとんに潜り込んだ。
窓を開けっ放しにしているため、風が入り込んでくる。その風を頬に受けながら沢田は目を閉じた。
今まで何度も死線を潜り抜けてきた。いつもいつも死と隣り合わせな生活を送っていた。現に今寝ている時こそ最も無防備で危険だ。まあボンゴレの本部、しかもわざわざボスの部屋に突っ込んでくる大馬鹿者で命知らずなやつは今のところはいないが。
そんな世界に籍を置きながらも殺戮がない世界を望んでいた。殺したくはないが殺さなければ大事な人が危険に晒される。そんな事の繰り返しだ。
あの夢は自分と彼以外は人が見当たらなかった。誰にも危害は加えられない。しかし何故無抵抗に撃たれたのか。沢田とて命は惜しい。死への恐怖もある。だから殺さないにしろ何かしら抵抗するはずなのだが、自分はそうしなかった。
5年も前の、自分を裏切った大事な大事な人が自分に銃を突きつけたからか。極限にまで追い込まれた状態で生きることに余計な感情は持たないようにしてきたのにあのとき自分は生きるのを迷った。自分の行動が信じられなかった。
沢田は久しぶりにかつての想い人の名を口にした。
目を閉じた。今度は夢を見ないよう願いながら。
暫くして突然強い風が吹いて、机の上の書類を何枚かばらまいた。
ひらりひらりて机から落ちていく書類には黒のゴシック体ではっきりとこう書かれていた。
『トゥットファミリーに関する報告書』
夜は更けていった。
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