17
言わなければならない。それはわかってはいるが、どうしても勇気が出ない。
リボーンには「俺から言うから」とか言っていたが、正直辛い。
素面で言うのは無理だと判断した俺は、部屋に置いてあった少々きつめのワインをグラスに注いだ。ドボドボと流れるワインの色は赤く、俺が犯した罪の重さを尚一層実感せざるを得ない。
それを一気に煽ると、体が熱を帯びてきた。よし、言おう。そう決心して部屋を出る。
バタンと閉まったドアは今日はもう開かれることはないだろう。弱い自分とはおさらばだ。なんて訳のわからないことを呟きながら廊下を歩いた。
酒に決して強くはない俺が飲むものではなかったのか、すごい陽気な気分だ。
ヒバリさんのアジトにアポなしで行くのは久しぶりかもしれない。酔っていても不安はなかなか消えてはくれないようだ。
「ヒバリさーん」
バーンと効果音がついてもいいような勢いで扉を開けた俺に、中で休んでいたらしいヒバリさんは閉じていた目をうっすらと開けて、「静かに入りな」とだけ言って、また目を閉じてしまった。
気が抜けた。俺があーだこーだと悩んでいても、当の本人がこれだから、何だが考えるのも馬鹿らしくなってきた。まあヒバリさんはこれから俺が言うことを知らないから当然な態度なのだが。
「ねー聞いてくださいよー」
ヒバリさんに絡んでみると、「近寄るな酔っぱらい」と足蹴にされた。何かひどい。
「俺、結婚するんですよー」
「へぇ」
ちらりと顔色をうかがうが、何も変化は見られない。
「というわけで、ヒバリさんにお願いがあるんでーす」
「どういうわけさ」
もう思考回路は滅茶苦茶だ。もう知らない。
「ヒバリさん、俺の愛人になってくださーい」
はい!と言って腕を広げる。ヘイカモンという台詞がしっくりくるようなこの台詞にヒバリさんは少々面食らっているようだ。
「は、」
「や、だってヒバリさんのこと好きなんですもん」
「随分勝手だ」
「そうですよ。勝手ですよ。でも仕方ないじゃないですか。好きなんですもん。傍にいて欲しいんですもん」
あ、やべ。泣きそう。
目が潤み始めたら、ヒバリさんは俺を抱き締めることで見ない振りをしてくれた。
「俺の前からいなくならないで下さい」
涙声で訴えたが、返事はない。
「正直結婚とかどうでもいいんです。政略結婚とか相手が可哀想だけど、仕方ないことなのかな」
「自分は可哀想じゃないの」
反応が返ってきたことが嬉しくて、さらにペラペラと喋る俺はヒバリさんの目にはどう映っているのか少し気になった。
「俺はヒバリさんがいるからいいんですー」
にへら、と笑う。嘘ですけど。
「さっさと跡継ぎ作って引退するんです。そうしたらヒバリさんと二人で隠居生活を」
「随分な妄想だな」
は、と鼻で笑われる。でも気にしない。
「それまでヒバリさんにはー愛人をやってもらいたいんです」
はあとため息をつかれる。当たり前だ。俺も滅茶苦茶だとは思っている。
でも何としてもヒバリさんには俺と一緒にいてほしい。
「何年愛人すればいいの」
ばっと勢いよく顔をあげたら、酒臭い、とそっぽを向かれてしまった。だって飲みましたもん。
「いいんですか」
愛人なんて。
「今この状態も愛人とそう変わらないと思うけど」
表立って会えないので、重役黙認はたまた協力よろしくなんてしてこそこそと会いに来ては逢瀬を重ねる日々。
「確かにそうかもしれませんが」
「今の関係に名前がつくようなもんだろ」
「はあ……」
何が言いたいのかわからない。この人は何を言おうとしている。
ヒバリさんはふっと笑って、ただ触れるだけのキスをした。
「鈍感」
ピンッとデコピンされ、痛い、と抗議の声をあげると、ヒバリさんは口角を僅かに上げた。
「いいよ」
心臓が止まるかと思った。この人は今なんて言った?
「いいよって何がですか」
否定されるものだと思ってた。矛盾しているかもしれないが、彼の性格を考えると、断られるのがオチだと思ったのだ。
「愛人、してやってもいいよ」
あくまで言い方は上から目線だ。でも立場的には俺が上。この人は俺の下につくのを極端に嫌い、常に対等又は上でありたがった。その彼が。
「言ってる意味わかってるんですか」
「わかってるよ」
馬鹿にするな、と言った彼の顔は笑っていた。
「昔、君を捨てたのに、君はそんな僕を必要としてくれた。だからそのお返し。借り作りっぱなしは嫌なんだよ」
嘘つき。嘘ばっかり。
「本当は君が結婚することになったらこの関係終わらせようと思ったんだけど、いざそうなると無理だね。出来ない。君を二度も捨てられない」
「……」
言葉にならない。ヒバリさん、ヒバリさん。呼びたいのに喉に何かがつっかかって声がでない。
愛人をして辛い思いするのは彼なのに。俺は今の関係もいつ終わらされるかとびくびくしていたのに。この人は。
「君の子供がボンゴレを継いで、君が引退するまで、ね。だからさっさと子供を作りなよ。それまでは愛人やるから」
一生一緒にいてあげる。そう聞こえた。
ありがとう、ごめんなさいと繰り返して、ヒバリさんに泣きついたけど、彼はしょうがない子だなと言って呆れたけど、俺の好きにさせてくれた。
ごめんなさい、ありがとう。俺の傍にいてくれてありがとう。愛人にしてごめんなさい。
好きです。大好きです。愛してます。ヒバリさんだけです。
……知ってたよ。愛してる。




2009.04.21〜2012.03.21

お久しぶりです。遠藤です。やっとかという感じですが、これで儚くて愛しくて…は完結となります。
思えばサイト開設して一ヶ月の時に、たまにはシリアスを書いてみたいと一ページ目を掲載したのが最初でした。あれから三年経ちました。
この作品は続きを見たいとコメントを下さった方もいて、こうして無事完結することが出来ました。
実はラストまで2010年には既に展開は決まってましたが、打ち込むのに時間がかかり、完結まで三年かかってしまいました。今年こそは完結させたいと、調子をつかむためにも、本来なかったシーンを書き下ろししました。ヒバリとツナの病室のシーンです。
二人の最後はハッピーエンドというには微妙かもしれませんが、これでも二人にとってはハッピーエンドだと思います。
後書きも長くなってしまいました。ここまで読んでくださりありがとうございます。
他にも色々書きたいことがあるのですが、長くなるので割愛します。
本当に、本当にありがとうございました。


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