儚くて…没ラスト
「ヒバリさん」
ふと声がしたのでまさかと思い、後ろを振り返る。
一番に目に入ったのは明るい茶髪の癖毛だった。
「沢田」
沢田はずっとうつむいていたが、決心したかのように顔をあげた。その顔はいかにも泣き出しそうな草食動物の顔だ。
「ヒバリさん。俺、貴方に言いたいことがあります」
ヒバリが無言なのを肯定ととらえ、沢田はそのまま話続ける。
「俺、いつもいつも何だかんだ言いながら、一番傷付きながら、それでも守ってくれた貴方が好きです。草食動物って思われてるのは知ってます。ただ、どうしても伝えたかったんです」
「沢田、これはどういう」
どういうことだといいかけた口を沢田は手でその先を口にするのを制した。
「ヒバリさん。俺たち、ここからやり直しませんか」
俺がヒバリさんに告白する所から。
そう言った彼の顔はあと一歩で泣くというのを必死に我慢している歪んだ笑顔だった。無理しなくていいのに。泣けばいいのに泣けなくさせたのは紛れもない自分だとヒバリは自らを嘲笑った。
自分の中の弱い存在を認めたくなくて卑怯な手を使って沢田を傷付けたのにこの子は自分を許し、ただ待っている。自分が沢田が広げている心の両手の中に飛び込んでくることを。
また拒否されるかもしれないという恐怖を抱えながら彼は自分に手を差し伸べてきた。ここまで来てしまった以上、もう後戻りは出来なかった。
気が付くと自分の中にすっぽりと沢田は埋まっていて、自分はしきりにごめんと涙を流していた。
ごめん、君を傷付けた。ごめん、許してなんて言える立場じゃないのに君は許してくれて、僕を必要としてくれた。ごめん、こんな弱い僕で。
一生分の涙は流したのではないかというくらい今まで人前で流すことのなかった水分が排出されていき、止まることをしらない。
泣き叫ぶわけでもなくただ涙を流す。沢田もヒバリのうでの中で泣きながらありがとうございますと呟いていた。
ヒバリの背中には沢田の腕が回され、きつく抱き締められていた。
二人してごめん、ありがとうと泣きながら言葉を口にし、二人の背中に回されたそれぞれの手はその間決して離されることはなかった。



2012.02.25

最初はこのラストにしようとしていたのですが、本編が当初と違う流れになったのと、それに伴い新しいラストを考えたのでお蔵入りに。ラストの甘さでいうとこちらの方が甘いかもしれません。


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