15
そっと病室に入ると、沢山の管に繋がれた彼の姿が目に入った。
意識は戻っているはずだと骸が言っていたから此方には気づいているはずなのに、何も反応がない。
もっと近付いて顔を覗き込んだ。
「ヒバリさん。」
その時ようやく漆黒の瞳が此方を向いた。昔と変わらず、とても綺麗だと思った。
「ヒバリさんにお話があってきました。」
「……で、いつ殺されるの。」
ようやく返事をしてくれたと思ったら、予想もしていなかった返事だった。
どうやら俺がヒバリさんの処刑の日時を知らせに来たと思ったらしい。
「違いますよ。守護者の件です。」
僅かにヒバリさんの顔が驚きの表情になる。
「何言ってるのさ。」
「ヒバリさんにもう一度雲の守護者になってもらおうと思って来ました。」
いや、なってもらおうというよりなってもらいますって感じかな、等色々言っていたら思いっきり睨まれた。
「馬鹿じゃないの。」
「何とでも言ってください。もう決定事項ですから。今頃きっとリボーンが皆さんを説得してるはずです。」
「は。五年前の君とはえらい違いだ。」
確かに五年前の自分ならこんな風にリボーンを使ったりすることはなかっただろうし、そもそも出来なかっただろう。五年というのは短いようで長い。
「五年で色々ありましたから。」
誰に言うでもなく呟く。本当に色々あった。環境も目まぐるしく変わった。
「……裏切り者を雲の守護者にするわけ。ボンゴレは。」
「ヒバリさんは裏切り者じゃありません。俺は、今でも仲間だと思っています。」
「群れるのは嫌いだ。僕は君たちを仲間だと思ったことは一度もない。」
嘘だ。本当に裏切り者だったら、わざわざ裏切る前に守護者のリングを返したりしない。それにこの間の戦闘の時も、急所を外して攻撃してきていた。裏切り者ならそんな恩着せがましいことはしない。
「ずいぶんと丸くなったんだ。また裏切られるとかは考えないの。」
「ヒバリさんはそんなことしませんし、俺がさせません。」
「へぇ。どうやって。」
「俺が24時間ずっとヒバリさんを監視します。」
「……トイレや風呂入るときも?」
んなわけないじゃないですか変態じゃあるまいし!と叫びかけたが堪えた。相手は怪我人だ。下手に騒いで傷が開いたらとんでもない。
それに、本当に24時間監視するつもりはない。第一、俺もそんなに暇じゃないしヒバリさんもそんなことはわかっているはずだ。
「ヒバリさんも冗談とか言うんですね。」
素直な感想を述べると、ヒバリさんはあからさまに顔をしかめた。
「君さ、一体僕を何だと思ってるの。」
「何って、ヒバリさんはヒバリさんですよ。」
「答えになってない。」
そう言うが否や、トンファーが飛んできたので、慌てて避けた。病室にまでトンファーを持ち込んでいたことに驚きだ。まあ恐らくリボーンがトンファーを置いておいたのだろう。
そして何故あの返答で怒るのかがよくわからない。それに、トンファーを投げたあとに体の痛みに眉を潜めるなら、投げなければいいと思うが、これ以上神経を逆撫でしたくなかったので、口をつぐんだ。
「君は相変わらず馬鹿だな。」
ヒバリさんは自嘲の笑いをもらした。
その笑いには、力がなかった。
「そうです。俺は馬鹿です。五年前、裏切られた筈の貴方を未だに好きなんですから。」
ヒバリさんの顔を見れずに、下を向いた。ついに言ってしまった。
裏切られて、離ればなれになって、それでも変わらなかったこの想い。誰にも言ったことはないが、皆にはとうにバレている。
「ヒバリさんは確かにボンゴレには必要です。だけど、これは俺のわがままでもあるんです。」
長年ボンゴレの配下において、信頼を得た後で、おいおい守護者に戻そうと皆は思っていただろうに、今すぐ戻してほしいとわがままを言ったのは俺だ。
ヒバリさんの傍にいたかった、ただそれだけの為に。
「……本当に君は馬鹿だ。」
そっと頭にヒバリさんの手が乗せられた。すごく温かいと思った。
「ヒバリさん。」
顔をあげて名前を呼んだ。ヒバリさんはちょっと困ったように笑っていた。
「僕も馬鹿になってたのかもな。」
そう言って、頭にあった手が後頭部に回り、引き寄せられた。
抱き締められて、キスされるのに、それほど時間はかからなかった。
[ 15/19 ]
*Prev表紙Next#
top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -