16
あの事件からかれこれ一年たった。
手加減したとはいえ、決して軽傷とはいえない傷を負ったヒバリさんもとっくに完治し、再び雲の守護者としてボンゴレに所属している。
最近は大きな抗争もなく、平和な毎日だ。
そんなある日、俺はリボーンに呼び出されて、執務室に向かった。
リボーンに怒られるようなドジ等に心当たりがなく、何故呼び出されたのかわからないまま、部屋に入ると、既に中にいたリボーンが口を開いた。
「リボーン、今なんて……?」
聞き取れた内容が嘘であってほしいという願いもあって、聞き返したが、残念ながら、俺の聞き間違いではなかった。
「お前にはそろそろ結婚してもらう。」
そう言い放った元家庭教師に怒りをこえてただ言われたことを脳内で再生させる。
「俺には……。」
ヒバリさんが、と言おうとしたが、リボーンはその先を銃をこちらに向けることで言わせてはくれない。
「ヒバリはお前の愛人になればいい。いくらお前が男色だろうが、周りには関係ねぇ。跡継ぎが必要なんだよ、ボンゴレには」
そう言ったリボーンの目はいつになく真剣で、俺にもの一つ言わせてはなるものかとものすごいオーラが周りを渦巻いている。
「好きでもない女を抱けないのは今は仕方ない。でもその前の段階はクリアしてもらわねーといけねーんだ。」
リボーンが淡々と述べる。
この部屋には俺とリボーンしかいないから、やけに彼の声が心の奥まで響く。
「ヒバリを、救いたいんだろ?」
真剣な彼の質問に俺も真剣に答える。
「うん。」
次の瞬間、リボーンのポーカーフェイスが崩れた。
「なら、俺の言いたいこと、わかるよな。」
「うん。」
「俺はお前ら二人が幸せならそれでいい。正直お前らを見ていると跡継ぎとかどうでもいいと思えてくる。正直親類から養子をもらうというのなくはないんだ。半ば強引にマフィアの世界に入れちまったから、恋愛くらい好きにさせてやりたかった。」
「……うん。」
「俺と守護者やその周りが納得してもその他が納得しねーんだ。正直敵であったヒバリをこちらに引き戻すこと自体、かなり大変だった。」
「……」
「俺だってこんなこと言ーたかねーけど、」
「もういいよ、リボーン。」
リボーンの言葉を遮る。彼の言いたいことはわかってる。わかってるから、そんな辛い顔で言わなくていいからなんて言えるわけがなかった。
僅かに口元を歪め、苦しそうに話す彼の顔はいつものポーカーフェイスで何を考えているかわからない普段のそれとは余りにかけ離れていた。俺は十年経って初めて本物のリボーンの一部を見られたような気がした。
「もういい。もういいから……。」
何がもういいのかもわからなあ。こんな苦しそうなリボーンを見たくなかったのか、はたまた俺の置かれた立場を嫌というほどわからなければならないということなのか。
「結婚、する。」
そう静かに言った俺をリボーンは目を見開いてこちらを見る。
「お前、意味わかってんのか。」
「もういいんだって。」
「よくないだろ。」
自分が最初に言ったくせにいつになく引き下がらないリボーンに思わず笑みが溢れる。きっと俺が反発してヒバリさんと駆け落ちすると思っていたのだろう。
確かに中学の時ならきっとそうしていた。でも今は。
「俺はヒバリさんが好きだ。好きでもない人を抱くとかましてや愛してない人の子供とか正直愛せないかもしれない。でも形だけでも結婚すればいいんでしょ。そうしたらとりあえずは皆納得してくれるよね。」
皆とは誰なのか、納得とは何なのか、俺は一言も説明しなかったが、リボーンにはきちんと伝わったようだ。
「本当にいいのか。」
ああ、俺ってこんなに多くの人に守られてきたんだ。
最終通告。今ならまだ間に合うかもしれない。それでも俺は。
「いいよ。」
彼を愛してしまっていたから、彼の側に少しでもいたいから、自分の心に嘘をついた。
卑怯だとヒバリさんは言うかもしれない。
何勝手なことしてるんだとトンファーで殴られるかもしれない。
どうか許して下さい。
これは好きになってはいけない貴方を好きになってしまった罰なんだ。こんな形で貴方を縛り付けることになって申し訳ないと同時にとても嬉しい。
俺はどうしても貴方が好きなんです。貴方しか愛せないんです。
涙が一筋頬を伝う感触がした。
これからはもうこのことでは泣かないと決めた夜、俺は何年振りかわからないほと涙を溢した。
これは何に対する涙なのか、俺自身ですらわからなかった。
[ 16/19 ]
*Prev表紙Next#
top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -