10
何度も話し合って骸もついていくという条件で交渉に応じる事にした。
何度もシュミレーションをしてきており、念には念をと武器も忍ばせて沢田は骸と二人でトゥットファミリーにやってきた。
指定の部屋に案内される。深呼吸一つして足を踏み入れた。
「トゥットファミリーのカーターさんですね?」
部屋に入ると机も椅子も何もなく、ただ一人の人間が待ち構えている。殺風景と表現するのが正しいのだろう。カーターは何も持たず、沢田の方に顔を向けて笑った。
「例の商談の事で来ました」
「知っているよ」
カーターは沢田等が先程入ってきた扉の方へ目をやり、軽く頷いた。
「私はその手には疎いもので、だから彼に代わりを頼むことにしたよ」
嘘つけ、と沢田と骸は思ったが、今気になるのは別の事である。
「代わり、と言いますと?」
カーターはニヤリと笑った。嫌な予感がした。
「私の娘の恋人でね、中々有能で最近はファミリーをまとめる仕事も任せているんだよ」
入ってきなさいというカーターの声を合図にゆっくりと無機質な靴の音が近付く。
次期ボスということか。もしかするとマンドルラファミリーのボスを暗殺したのも。
沢田はゆっくり振り返った。
だんだん現れていくその姿は最早黒としか形容のしようがない。顔は仮面をつけており、わからない。黒い瞳が沢田を射抜く。
「じゃああとは頼んだよ。」
カーターが立ち去りバタンと扉が閉まった。
仮面の彼から発せられる殺気に身震いする。
ここで負けたら駄目だと自らを奮い起たせる。
「名前は?」
呼び掛けても微動だにしない。口がきけないのか喋らないのかわからないが流石というべきなのだろうか。動じる様子が全くない。
「マンドルラファミリーのボスを殺したのはお前か。」
瞬間ナイフが沢田の首をすれすれに通り壁に刺さった。マンドルラのボスも刺殺だったのだ。これは肯定を表している。
「交渉決裂と言うことで此方も容赦しませんよ。」
骸の声を合図に沢田はグローブをはめた。
許さない。許せない。こいつに自分の仲間が何人もやられてきたのだ。
人数的には向こうが不利な筈なのに互角なのが悔しい。
骸と仮面をつけた彼が闘っているが、中々勝負がつかない。部屋もひびが入ったり既に凄まじい状況だ。
「邪魔する奴は消すだけさ。」
仮面の彼が初めて声を出した。何故か鼻の奥がつんとなるのを沢田は感じた。必死に逃げ切り隙を見付ける。
『発射準備、スタンバイ、OK』
アナウンスが聞こえる。
炎はどんどん大きくなる。骸に当たらないように角度を調整する。
「今です沢田綱吉!」
骸の合図にグローブから炎が放たれた。
同時に仮面の彼からも紫の炎が放たれ、相打ちになり次の瞬間その部屋は火の海と化した。


漸く火が鎮まり、自らも手負いとなった骸と沢田は仮面の彼の正体を見ようと血の海の中の彼に近付いた。
彼に近付く度に心臓の音がうるさくなる。見てはいけない、と誰かが耳元で囁いていた。
それでも見なければならないのが悲しきボスの定めである。
仮面をそっと取ると手が震えて仮面を落としてしまった。
「嘘……だろ」
ピクリとも動かない彼はよく見知った懐かしい顔だった。
憎んでいた筈なのにいざ面と向かうと涙が溢れてきた。
「ひ……」
五年ぶりの再会は最悪なものだった。
「嫌だ……嘘だ……」
頭が真っ白になる。何も考えられない。骸が何か言っているのが聞こえる。
血は止まることをしらない。
「ヒバリさんっ」
愛してる。愛してる。今までも今もこれからも死んでもずっと愛してる。君を傷付ける位なら命なんか要らない。


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