カウント9
少しずつ。本当に少しずつだが、確かに芽生えつつあるこの感情。
しかしその感情を認めたくなく俺は無意識に無視していた。
だから自分ではなかなか気付かなかった。
しかし、そうそう隠し続けられる訳がなく、いつだって、そう、サインは出ていた。

今だってほら、わずかに心拍数が跳ね上がる。
しかし未だにこの感情に名前をつけることは出来ていない。
この感情は一体何なのだろうか。



「沢田」
あれから毎日のようにヒバリさんは迎えに来てくれる。
彼曰く「一瞬でも目を離すと風紀が乱れる」かららしい。
随分失礼な話だが、ヒバリさんはヒバリさんなりの考えがあるのだろうから、敢えて突っ込んだりはしない。それにしようものなら命はないと思った方がいい。
流石に帰りはヒバリさんも風紀の仕事がある上、俺も精神的にもキツいので、遠慮させて貰っている。

「ヒバリさんって本当に風紀に関しては手厳しいですよね」
まあ貴方が一番乱してますけど。
何てことはおくびにも出さない。
心のなかで思うだけだ。

「君が乱してばかりだから、特に」
学校への道を二人で歩きながら、話す。獄寺くんには事情を話して、半場無理矢理朝迎えに来てもらうのをやめた。
だから、ここ暫くは行きは二人きり。

最初こそヒバリさんと二人きりだなんて寿命が縮みそうで怯えながら学校へ行った。
しかし、群れてない草食動物には興味がないらしく、何かされた、と言うことはない。

それに然り気無く優しい。
きっと俺が目の前で事故に合ったりすると風紀は乱れるわ胸糞悪いわとかそういう類いの理由なのであろうけど、いつも歩道の外側を彼は歩いている。
たまに、本当にたまにだが、危ないから、という理由で腕を掴まれる。
ここで手ではないところが、何ともロマンチックさには欠けるが、俺にとってはそれだけでも体温一度は上がりそうだ。

きっと彼にとっては何てことない動作だが、俺の心臓を吹っ飛ばすには充分すぎる。

いつまで彼とこうして横で歩けるのだろう。ふと思った。
ちらりと横を向くと整った横顔が見える。

風紀が乱れるから一緒にいる。なら風紀が乱れ続ければ俺はヒバリさんと二人でいられる。
いけないことはわかっているが、柄にもなくそう思った。

きっと俺は只の草食動物。昔はそれだけで良かったのに、もっと自分を知ってほしい。

「もうすぐ学校だ」
ヒバリさんは目を細めて呟く。
無情にも時間は待ってくれない。

「ヒバリさんは、いつまで迎えに来てくれるんですか」
思わず口を滑らした。慌てて口を押さえる。
大丈夫。きっと彼は普通の人間ではないから(随分失礼な話だ)、気付かない。そう言い聞かせた。
ヒバリさんは驚いて目を見開いたままこちらを見ている。
あ、ヤバい。気付かれたかも。
「ずっと来てほしいの」
俺は答えない。
ヒバリさんはさらに言葉を続けた。
「ずっと、」
俺は顔を上げてヒバリさんを見た。笑っていた。
「なんて言ったら嬉しい?」
俺はきっと真っ赤だ。
そんな俺を知ってか知らずかヒバリさんは笑顔を浮かべたまま、さあ学校に着いたと言って風紀委員の方に行ってしまった。


ヒバリさんはどう思っているのだろうか。
一人残された俺はただそう考えることしか出来なかった。


〈end〉

2010.07.30
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