そよそよと吹く風が髪を揺らす。それが凄く気持ちいい。
そんな日の朝に死ねるなんて俺はなんて幸せ者なんだと思うのはごくごく普通のことだと思う。
デート。それは一般的には恋人が二人で出掛けることを指す。
相思相愛な二人が望んで出掛けるのがデートであって決して脅されて半泣きになりながらするものではない。
そう、俺は今から「デート」をします。
リボーンに脅されて。雲雀恭弥さんと。
はたしてこれはデートと言うべきものなのか。
まあリボーンがデートと言ったのでどうやらデートらしい。
男二人でデートなどふざけるのも大概にしてほしい。
「僕も同感だ」
ひっと喉がひきつる。やはり何度会っても慣れない。彼の威圧感には。
「ひひひひ雲雀さん」
「ひが無駄に多い」
「すみませんでしたあっ」
好戦好きな彼にとんでもないいちゃもんをつけられて戦わなければならないなんて御免被る。
「で」
「で、と言いますと?」
「どこに行くの」
どうしよう!群れるの嫌いな彼に暴れられては困る。人が全くいないところ。水族館遊園地動物園。全部おもいっきり群れてるだろ!
ああこんなときに限って俺の頭は働かない。いつものことだが。
どうするんだよ!
『群れてても咬み殺さないで下さい』
なんてお願いしたら最後。
『じゃあ君が僕と戦ってくれる?』
そんなオチになるのが見え見えなんですが。
あれ、何だか目の前が霞んで見えないな。
「今日は咬み殺さない」
涙目になった俺にかけられた言葉は意外以外の何者でもなかった。
彼が、雲雀さんが咬み殺さないなんて前代未聞だ。
もしやあれか。雲雀さんは他人の涙に弱いとか。
いや、違うな。彼は血も涙もない人間だ。
「誰も、ですか?」恐る恐る聞いてみた。聞き間違いじゃないだろうか。
「誰も。」
赤ん坊との約束だからね。と言ってんで、どこ行くのと聞いてきた。
リボーン!
俺は今だけリボーンが神に思えた。今だけの話だが。
いや、訂正する。どうせ何か雲雀と企んでるに違いない。リボーンが関わったものにまともなものはない。
しかし、いくら咬み殺さないと言えどやはり群れは彼にとっては苦痛以外の何者でもない。
出来るだけ人が少ないところ。少ないところ。普段使わない頭を使ってオーバーヒートしそうだ。
「海」
「え?」
「海、行きませんか。」
海なら季節外れだがら人もあまりいないだろう。
「まあいいんじゃない」
俺は甘かった。
海と言えばベタなデートスポット。
いくら季節外れで人が少ないと言っても辺りはアベックばかりだ。
選択を誤った。
「あはは…なんかカボチャがいっぱいいますね」
お願い雲雀さん!ここは俺を咬み殺すだけでやり過ごしてください!勿論咬み殺されないのがベストだけど、そんなことは言ってらんない。
「…」
怖い。無言が一番怖いんですけど。何されるかわからなくて怖いんですけど。
恐る恐る顔をあげると彼と目があった。
「あの」
「何」
ブスッとしているのは必死に耐えているんだろう。すみません。俺のせいです。
「本当に咬み殺さないんですね」
「何を今更」
そういって雲雀さんは海の方に顔を向けた。
ちょうど日の入り頃らしく、綺麗な夕焼けだ。
その夕焼けの光が雲雀の髪にあたり、凄く綺麗に思えた。
「まあ、たまにはこういうのも良いかもしれませんね」
勿論そんなのは雲雀の前ではおくびにも出さなかったが、沢田は少しだけリボーンに感謝した。
〈end〉
2009.12.29
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