妙に気に入らない。気に入らないと言った感情を持つ時点であたしが負けてるのかもしれないけれど、今のあたしはとてつもなく機嫌が悪い。

「…お姉ちゃん?」

不思議そうに首を傾げながらあたしを見上げる片割れの頭をゆるゆると撫でて、その隣に並ぶオカンを見上げる。微笑ましそうにあたし達を見る幼なじみの彼はいつもそうだ。

我らがお姫様を一番に扱う。

──まあ?だからと言ってこのあたしをお姫様扱いしたら一瞬でどん引きである。あたしをお姫様扱いするなら羊にしろと言ってやりたい。ごめん、今のは冗談だから睨むなよ羊。

「でも、錫也って月子一筋って感じじゃないよ?」
「はっ、だから羊はアホ毛なんだよ。あの二人の行動を見てみろバカ」

月子から離れて先に歩いていた羊の隣に並びながら後ろを指さす。あたしの言葉に有り得ないよ、なんて頬を膨らませながら振り向いて顔を青ざめさせた。ざまあみろ。

「月子、髪に花びら付いてる」
「へ、あ、…ありがとう」
「こんなに綺麗な髪をしてるんだから花びらがくっつくんだろうな」
「もうっ!錫也のバカ!」

顔を赤らめる月子可愛すぎる。………じゃなかった。あの気障ったらしい言葉を吐く=月子好き以外に何があるんだろうか。是非ともあたしに教えて欲しいぐらいだ。

「僕の月子に何してるの!?」
「お前のじゃないだろ?」

また始まるあの遣り取りには既に慣れてしまった。最初の方は、月子が取られるからか錫也が取られるからか分からずに痛んでいた胸があったけれど、今のあたしにそれは皆無だ。何故かって?──悩んだって無駄だって分かったからかなあ…。

ぼーっと三人の遣り取りを見ていれば、月子を抱き締める羊を宥めていた錫也があたしの名前を呼ぶ。

「名前、こっちにおいで」

我らがお姫様を大事にする騎士は、片割れであるあたしでさえも大事にしてくれている事は否応無く、教え込まれた。それでも、お姫様である彼女だけが特別である事に変わりはない。

(矛盾は承知だっつの)

今は、こうやって名前を呼んでくれたらいい。隣にいる大事なお姫様はあたしのお姫様でもあるのだから。

「──今日はお前の好きな物を沢山作ったんだ」
「え、マジで」
「マジです。だから、今日はみんなで屋上庭園な?」

くしゃりと頭を撫でられて、笑みが零れる。そう、今はこれであたしは幸せだ。




この気持ちをと呼ぼうか




以下後書き


にき様、リクエストありがとうございました!

当初は錫也視点でいこうかな、なんて考えていましたがあまり連載を進めれていないので主人公視点にさせて頂きました。