「あら、可愛らしい耳を付けてるのね」

やわやわと触られる感触に眩暈を覚えながらも、目の前でニコニコと笑う上司に引きつる頬を堪えた。

事の始まりはやはり、一年宇宙科の首席であり、親戚である天羽翼の作った実験対象に自分が選ばれた事だ。名前兄ちゃんだから大丈夫!そんな理由で納得するか!限りなく怒鳴って、またもや教え子である夜久月子にお願いしますと頭を下げられ、あれよこれよと………こうなった訳なのだが。

「似合ってるじゃない」
「男に猫耳は気持ち悪いだけですよ」
「あなたには似合ってるわ」
「……どうも」

翡翠にも近い髪を靡かせながら、現理事長は笑う。ふにふに。さわさわ。頭部の異物に触れられる気持ち悪い感触にほとほと参ったと言った表情を表していた俺に気付いたのか、彼女は小さく笑みをもらしながら、俺の手を引いた。

「琥太郎ばっかり、あなたに会うんですもの。久しぶりに話しでもしましょ、名前」
「……は」
「幼なじみなんだから少しぐらい、ね?」

まだ耳に触っていたいのよ、なんて見上げたまま笑われればしょうがないとしか言えない。上司以前に幼なじみである彼女は、俺の手を引きながら、鈴が鳴るような声で笑った。

「昔みたいに琥春ちゃんって呼んでもいいのよ?」
「お断りします」
「もう、ひねくれちゃって…」
「………うっさいわ」

触れた手は、昔と変わっていなかった。



(懐かしくて)
(優しいまま)