「かっなくっぼくーん!」

背中に来る衝撃に緩む口を引き結んでゆっくり振り返る。クラスメートである男子に鞄を持たせながら当たり前のように笑って登校する彼女は僕の想い人。目線を少しだけ下にすれば、標準の女の子より大きめな身長を持つ彼女とはすぐ目が合う。

「おはよう、名字さん」
「今日は早いね、自主練?」

薄焦げた茶色い髪を風に靡かせながら、彼女は僕を見上げる。彼女の隣で頭を掻きながら先に行ってんぞー、と笑う二人は、多分、僕の気持ちを知ってるんだろう。金色と桃色の彼らに視線を向ければ、控えめな笑顔を向けられた。

「さっきまで自主練だったんだ。名字さんこそ、いつもより早いね」
「あー、今日はね、陽日先生に課題提出しなくちゃならなかったし…」

会長にまで呼ばれたんだー…なんて溜め息を吐く名字さん。会長って一樹、だよね。名字さんは一樹と同じ学年なのに一樹自身が留年してるから、敬語を直さないからいつも一樹は僕に愚痴をこぼすんだけど。何て頭の隅で考えていたら、いつの間にか名字さんは、僕の腕を掴んで歩き出していた。

「予鈴が鳴ってるから急ぐよ金久保くん!」
「うわっ、あ、うん!」

彼女の身長が平均以上だとしても、十センチ以上差がある訳だから少しだけ歩くのが辛いのは言わないでおこう…かな。緩む口を抑えずに、僕は前を歩く彼女の背中を見つめた。



(知らず知らず)
(君への好きが)
(増えてくよ)