可愛い人や綺麗な人はモテる。中身が大事だと豪語しながらも本心は見た目を重視する。やはりそれは男女共々に当てはまる事だろう。しかしそれらが創られた美しさで、可愛さならば、心惹かれる事が有り得るのだろうか。
きっとそれは、『創られた物』だと分からない限り、意味は無いだろう。
人の好みは三者三様とある。長い髪が好きだったり、短い方が好きだったり。切れ長の目が好きだったり、たれ目が好きだったり。こんな風に好みは誰にでもある。
だからこそ一定の人物に複数が同時に恋慕を抱くという現象は有り得ない。…しかし、目の前でそれは覆されたのだった。
「堺さんっ、次は移動教室だから案内するよ!」
「え?案内してくれるのぉ?ありがとぉ!」
胸元辺りまで伸びたふわふわと綿のようなブロンドの髪を揺らしながら、少女は笑った。少女の周りにいた男達はじわじわと頬に赤を入れたまま、廊下の真ん中で立ち止まる。
甘い薔薇の香りが辺り一帯を支配しているが、それはきっと彼女に与えられた補正の一部だろう。
そんな少年少女を見ていると、狼の群れの中に迷い込んだ羊と例えるのが、一番正しいのかもしれない。
「何あれ」
「…陽炬は知らなかったか。俺達と同じ天文科の堺さん。羊が転校した時に一緒に来た子だよ」
「ふーん。…あ、哉太それあたしのポッキーだっての!」
「はあ?俺のだから!」
「お姉ちゃんも哉太も騒がないの!」
そんな見目麗しい少女を横目にポッキーを頬張る少女は、小さく笑みを浮かべた。
「あたし、あの子と話してみよっかな」
嬉しそうに頷く妹と、ギョッとした表情の幼なじみに、笑みは深く、深くなった。