夢なら覚めろと思ったのは、果たして俺だけだろうか。
「こたちゃん!」
勢いよく上に乗られた俺は、息苦しさよりもその声の高さに目を丸くして、馬乗りになっている人物を見上げた。キラキラとした目で俺を見つめるそいつを確認しては、困ったように頭を掻く不知火に声をかけようとした、が。
「なんかこたちゃん老けた?」
ピシリ。空気が固まった音がした。ゆっくりと起き上がって、俺を見つめる銀色の子供の頭を掴む。上擦った声は、昔聞いたようなそうでもないような、…よく分からない声で。記憶の糸を手繰り寄せれば、小さな子供の笑顔が浮かんだ。
「…お前、凌か」
「せやで?きづかんてどんだけこたちゃんにぶなったん?こーねんき?」
…これは、凌だな。一度だけ軽く拳を頭にぶつけて、困ったように頬を掻く不知火に視線を移す。不知火は青空に目で何かを訴えたかと思えば、翼行くぞ!と天羽の腕を引き、俺達に背を向けた。…面倒なものを置いたまま。
(ま、今日が金曜日で良かったのかもしれないな…)
再度溜め息を吐いたあと、青空にあることを頼んでから保健室から追いやった俺は、懐かしい顔をまじまじと見つめた。そんな俺を楽しそうに見つめる凌を眺めながら、こいつは何歳の凌なんだろうかと考える。
「凌、お前何歳になった?」
「んーとな、ななつやで、ななつ!」
「七歳ってことは…杏は生まれてないな」
「あん?」
「いや、気にしなくていい」
頭をがしがしと強めに撫でながら、こいつと出会った日にゆっくりと思考を沈ませた。