「何が解らんのや?」

ん?と首を傾げながら私の机の前で気怠げにしゃがみ込む相手に思わず目を見開いた。だ、だって、さっきまで哉太に注意してたから私のこと見てないだろうなって思ってたから……何か、予想外すぎるのは気のせいなのかな。

「やーひさ?」
「…っあ、ここです!」

分からない所を見せれば先生は眼鏡のフレームを指で少しだけ押し上げて、小さく溜め息を吐いた。溜め息を吐いた先生に思わず肩が跳ねた私の横に、いつの間にか、錫也がいた。

「一条先生、俺がこいつに教えますよ?」
「俺の担当科目やのに何で生徒に任せなあかんねん。アホか」
「っ、…でも先生は次の授業が…」
「お前が邪魔せんかったらとっくの昔に夜久に教え終わっとるわ」

どんだけ俺を近付かせたくないねん、と舌打ちをこぼした一条先生は私を横目に見たかと思えば立ち上がり、錫也に一冊のノートを手渡した。錫也はノートを見つめたまま、先生に何ですかこれ?と首を傾げる。先生は小馬鹿にしたように笑ってから、口を開いた。

「今日やった分の簡単なまとめや。俺が高校生のときは気が狂う程ノートとっとるからお前らより分かりやすいやろ」

頭を掻きながら笑う先生に錫也は何故か眉を寄せたまま、笑った。




(俺夜久に近付くつもりはないで?琥太ちゃん先生とか直獅とか水嶋とは違うから)
(……それは、どうでしょう)