「神話科の担任やらせてもらう一条凌です」
ニコリと笑みを向けると、座っていた生徒達の視線を一身に浴びてしまう。それに気付いた男は笑みを消した後にマイクが拾わない程度の舌打ちをしては、簡単な自己紹介を生徒達に向かって紡いだ。スラスラと男の口から紡がれる無機質な声に、何人かの生徒は不思議そうに首を傾げた事に翡翠の保険医は溜め息を吐いた。
───まばらに響く拍手に男は頭を下げ、壇上から立ち去りながら視界に偶然入ってしまった一人の少女を物珍しげに思いつつ、男には珍しくその少女の存在を頭の隅に置いたのだった。そして男は首をきつく締めていたネクタイを思いきり緩めて、大きな欠伸を零す。
(……女、おるやんか)
座ったパイプ椅子がギシギシと音を立てるが、気にした様子も出さずに男は目を伏せた。うつらうつらとする意識の中、男はこれからの学園生活を楽しみにしていたとか、していないとか。
◆
「───一条」
「ん、…?」
「次はお前の授業だろう?」
「……二年の天文科、やっけ」
「早く行きなさい」
ベットから起き上がった男に向かって白衣を投げつけた男は、小さく笑みを浮かべて、手をヒラヒラと振りながら机へと向き直る。うんうんと寝ぼけ眼でふらふらと出入り口である扉に手をかけた男は何かを思い出したかのように振り返った。
「……これからよろしく、琥太ちゃん」
「星月先生、だろ」
20121121改訂