星見会で夜久に話しかけようと思えば、はたと忘れていた事に気付く。

(せや、あいつ…マドンナやったな)

あまり関わらなかったから忘れてた…と頭を掻きながら空を見上げていると、背中を叩かれた。

振り返れば、ニコニコと笑ったままのあずが俺を見ている。首を傾げれば、あずの隣におった翼が俺に抱きついてきた。

「……どないしたん」
「凌兄、暇でしょ?」
「俺達と星を見るのだ!」

きゃっきゃ騒ぐ翼の頭を撫でていれば、何故か周りに注目されていたらしく、俺が視線を向ければ、全員が全員、一斉に視線を逸らした。

「別にええけど…あ、夜久どこおる?」
「書記ならぬいぬい達といるぞ!」
「夜久先輩に用事?」

季節が夏へと変わってから、あずは弓道部に入ったんやっけ。そりゃあ、夜久を知ってるか。

あずの問いに頷いてから辺りを見渡す。

(…確かに不知火といるみたいやな)

視界に入れた夜久の元へのそのそと近寄り、肩を叩く。勢いよく振り返った夜久に酷く驚きながらも、緩む口を我慢せずに笑った俺を見て、夜久も笑った。

「何か用ですか?」
「………この間、探してくれておおきに」

お礼の意を込めて、軽く頭を撫でてみる。自分から触れる女の子の感触は変な感じやけど、髪の毛やし…どうって事は無い、筈。

「え、えっ…あの、」
「雨の日、っちゅーか…俺が道場に来てた日に…」

うっすらと顔が赤い夜久を見ながら首を傾げれば、理解したと言わんばかりに夜久は頷いた。それから、安心したかのように息を吐くものだから、少しだけ心配になった俺は夜久の顔を覗き込んだ。

「───っ!?」
「…顔が真っ赤」
「かっ、からかわないで下さい!!」

頬を押さえて後ずさった夜久を支えたのは、不知火。俺と夜久を見て小さな溜め息を吐きながら、空を見上げる。

夜久の頭を撫でていた手がいつの間にか離れていた事に気付いた俺は、その手を隣に立っていた翼の頭へと移して口を開いた。

「…星、見よか」
「うぬ!」
「では夜久先輩、また後で」
「う、うん!」

一条先生もまた後で!そうやって手を振る夜久に目を瞬かせながらも、俺はそれに答えるように手を振ったのだった。