確か、弟の杏が生まれる前から凌は俺といた。幼なじみと言える程、長くいた訳でもないし本人だってうろ覚えでしかないと言っていたのは今でも変わらずに覚えてる。…凌が六歳、俺が九歳の時だった。

時代に合わない着物を靡かせて、転けないように地面を見つめるのは銀色の髪を持った子供で、当時の俺は慣れない手つきでそいつを抱えた。話をしてみれば、あまり耳にしない方言で話すものだから理解するのに時間が必要だった事は言うまでもない。

その後、迎えに来た母親に勢いよく頭を叩かれて、紫色の目をゆらゆらと揺らしながら泣かないようにと、唇を噛んでいたのは我慢強い証拠。そんな奴を見た母親はしょうがなさそうに、しかしどこか寂しそうに俺と奴を見て笑った。

数日後に誕生日を迎え、凌は七歳になった。そのひと月した後に生まれた子供を残して、奴らの母親は死んだと聞かされてる。それからふた月、今度は父親が過労死で亡くなったらしい。出会ったあの日から、度々と交流を深めていた俺の家では、衝撃が強すぎて、あの姉でさえ泣いていた。

だがどうだろう。目の前でだらけた白衣の袖を捲りながら、琥太ちゃん!と俺を呼ぶ奴は確かに七歳になったと言っていた。まだ母親であるあの人も健在と言うことに違いない。ふと見下ろした凌をしっかりと膝に乗せて頭を撫でた。

「凌、たくさん泣きなさい」
「…こたちゃん?」
「あいつみたいになるんじゃないぞ」

ゆらゆらと揺れた紫。いつだって気丈に振る舞っている奴の泣き顔を姉さんにも見せてやりたいと、少しだけ俺は笑った。

「俺との約束だ」