入学式だ!と叫ぶ男子。

担任の先生に制されても興奮覚めやらぬ勢いで、椅子や机に座って騒ぎ立てる男子に私は無意識に息を吐いた。制服のスカートに未だ慣れない私は、今年から入る一年生に思いを馳せて校門前まで走り出す。

「くひひっ、おはよ。お嬢ー!」
「おはようございます、白銀さん」
「まだ一樹は来てないよ?」
「一年生見に来ただけです」

私が笑えば、白銀さんも表情筋をだらしなく緩めて笑う。顔が整ってる奴は何してもイケてるって言う奴なのだろうか。そんな事を考えていれば、私の頭を撫でようとする白銀さんの手に気付く。

素早く避ければ、白銀さんは更に口角を吊り上げて私を撫でようと手を伸ばした。

「白銀さんの変態!」
「褒め言葉ありがとう、お嬢」
「うざい!!」

撫でようとする、それを避ける。そんな事を繰り返しながらもピタリと足を止めて周りを見渡せば初々しい顔ぶれの中に亜麻色の長い髪が風に靡いた。茶色と色素の薄い異なる髪色を持った男の子を両端に歩く女の子は、とても可愛らしい。

「白銀さん白銀さん!あの子可愛くないですか!?」
「今年入った唯一の女の子だねえ…」
「今年はあの子と私だけかー…」

私は女の子の後ろ姿を見つめながらそう呟いた。可愛いなあの子、機会があればお近づきになりたい。──なんて煩悩丸見えな考えを浮かべていれば、白銀さんはお嬢も可愛いよ?と私の頭を撫でながら笑う。流石変態は人を褒めるのも上手いんですね。

「それより!お嬢、一樹が探してるよーん」
「…ワオ、白銀さんの携帯がむごい事に…!」
「着信三十四件に似た内容メールが二十件…こわっ」
「『早く来い!』だけじゃないですか」
「お嬢も大変だなあ」
「大変ですね、私」
「すっごい他人事…」

私はうんうんと頷きながらも、白銀さんの肩に手を置いて、行ってきますね、と呟いた。行ってらっしゃい、なんて笑顔で言った白銀さんに私は背中を向けてから、急いで教室に向かった。

「もしもし〜?ん、お嬢なら教室帰ったよ」
『ーっ!……!!…!?』
「一樹うるさい」




改訂/20120815