「木ノ瀬くんとその副部長くんが?」
「…君に話すのは可笑しいかもしれないけど…そうなんだ」
困ったように笑う金久保くんは、何故か朝から私に会いに来てはこう話した。ついこの間出会った木ノ瀬くんと言う一年生は、弓道部の副部長である子とそりが合わないらしく、よく衝突しているとか何とか。関係無い私に話して大丈夫?と問えば、今頼れるのは君だけだからとそれはそれは嬉しい返事が返ってきた。
「金久保くんも大変だよね。部長って仕事があると」
「まあ、僕に務まるかなって考えた事は多々あるかな」
「謙虚!謙虚過ぎるよ金久保くん!」
窓際にもたれながら金久保くんを見上げれば、胃の近くを撫でながら彼は緩く笑う。───…部外者があんまり首を突っ込むのもいい気はしないだろうし。どうしたもんだか。溜め息を吐きながら、私は外を見た。
「あ、月子ちゃんは大丈夫?」
「うん、夜久さんにはおまじないを伝授したからね」
「私から金久保くん、金久保くんから月子ちゃんへの伝授。…いいねそれ」
少しだけ強い日差しを見上げながら、深く呼吸をする。同じように空を見上げていたらしい金久保くんは、私を見たかと思うと優しげに笑いながら頭を撫でられた。
「…撫で癖付いたんじゃない?」
「……どうだろう?」
金久保くんは、私の頭を数分撫でたかと思えば、話を聞いてくれてありがとうと一言言っては教室へ戻っていった。先程まで隣に並んでいた背中を眺めながらも、彼の力になるにはどうしたらいいのかなとちっぽけな脳を捻る私を湿気を多く含んだ風が笑った気がした。
改訂20130105