──実は、私に従兄弟が居る。二つ年下だからなのか、それはもう可愛くて、弟である陽汰の次に目に入れても痛くないと叫べるぐらいである。
「弓道部に入るの?」
「う、うんっ…暦ちゃんみたいにしっかりやれるか分からないけど、頑張ってみたいんだ…」
「伸ちゃん…」
私より小さい従兄弟を勢い良く抱きしめれば、照れくさそうに笑って抱きしめ返してくれた。それが嬉しくて、スリスリと髪の毛に頬ずりをすれば、くすぐったそうに伸ちゃんは体を捩らせる。
「伸ちゃん可愛い!」
「ぼっ、僕は可愛くないよ…!」
私の言葉に顔を赤くさせた伸ちゃんは、私から急に離れたかと思えば、暦ちゃんばいばい!と言っては走り去ってしまった。
「───あ、行っちゃった…」
「待て、天月。状況が把握出来ない」
「出来ない時点で会長の負けです」
「待て待て待て待て!」
「…何ですか?」
「あいつは確か一年天文科の、」
「小熊伸也。私と陽汰の従兄弟です」
初耳だぞ!?と詰め寄ってきた会長に初めて言いましたから!と笑顔で返せば、会長は溜め息を吐きながら伸ちゃんが走り去った廊下を見つめた。──私は、隣に立つ会長を見上げてから不意に鳴った携帯に驚きながらもポケットから取り出した。
「…」
「……天月?」
「会長、弓道部って何処でしたっけ」
「……知らないのか」
「行った事ありません」
「…案内する」
「ありがとうございまーす」
何かあったのか?と首を傾げながらも歩くペースを合わせてくれる先輩に、私は口元に人差し指を持って行き、内緒です、と笑ったのだ。
改訂/20120818