堪えるような嗚咽が聞こえた。目の前で涙を流す奴は同じクラスの学級委員か何かだった筈。何で泣いとるんじゃ。なんて聞けなかった。何でだろう。時間が止まったかのように俺はそいつを見つめ続けた。
「気が済んだか?」
「……、嗚呼…君か」
「……」
「大丈夫だよ、私は」
数十分経ってから奴は俺に気付いて言葉をもらした。…私は、ってことは誰かは大丈夫じゃないってことじゃないのだろうか。俺は訝しげに目の前の学級委員である女を見つめる。女はヘラリとそれはそれは下手くそな笑顔を浮かべて立ち上がった。
「ご心配無用だよ、仁王雅治くん」
交友関係にいちいち、君が関与する必要性は皆無に近しいからね。と言った女は俺の腕を涙で少しだけ湿った手のひらでポンッと叩いた。俺は小さく、返事を返す代わりに溜め息を吐いた。……女子はよく分からない。交友関係でいちいち泣く必要があるのだろうか。まあ、とにかく。俺は女が立ち去るのを見送った後に小さな紙切れを見つけてそれを広げた。
罵倒、罵倒、罵倒、罵倒、罵倒、罵倒、罵倒。○○ちゃんはあんたが嫌いだって!本当、消えたら?あんたがいてもいなくても授業に支障はありませんよ学級委員様!
……下らなさすぎる。最近丸井が言ってた虐めはあの女のことか。俺は面倒だと言わんばかりに頭を掻き、紙をグシャグシャに破り捨てた。捨てた紙を一瞥してから俺はポケットに手を突っ込んで歩き出す。まだ学級委員は学校にいるじゃないだろうか。ま、いなくても別に構いはしないけれど。
(あの涙が嘘に見えた)