本を読んでいた。
ただそれだけだと柳は言った。目の前で拍子抜けだと言った顔をする女生徒を柳は一瞥した後に立ち上がる。鞄を持ち、スタスタと歩き出す柳に溜め息を吐きながら追う女生徒を周りは小さく笑いながら見送った。
「名字」
「ん?」
「何故ついて来るんだ」
「参謀なら分かるだろぃ?」
「………」
「嘘だよ。丸井の真似してごめん」
「理由は」
「嗚呼、…暇だから」
女生徒、名字は笑いながら柳の隣に並び、足を早めようとしたが柳が歩く速度を緩めた為にそれは叶わなかった。名字はお礼の言葉を柳へと紡いだ後に大きな欠伸をして、靴箱に入れていたローファーを取り出す。柳も靴を取り出しては、名字が履き替えるのを終えるのを待った。
「っし、出来た」
「……女子も休みか」
「ん?…あー、部活?休みだけど」
「ならちょうど良かった。少しばかり買い物に付き合わないか?」
「いいけど」
「……けど?」
「さっき一緒にいた綾織さんとのカンケーを」
「本について話をしていただけだ」
「…………」
赤く染まる空を名字は見つめながら小さく声をもらした。つまんない。それを聞き逃すことなく耳に入れた柳は誰かに連絡を取っていたであろう携帯を名字の頭に軽く当てたのだった。
(影がふたつありました)