「分かんないなあ…」
「何がだよ」
頬杖をしながら空に映る夕日を眺めながら名字は笑う。犬飼にも関係はあるんだけどさ、と伸ばしているらしい前髪を撫でながら再度、視線を空に移した。
日誌を書く俺と名字。サボんなよ、と言えば、サボってなんかないよ、と返事が返ってくる。クルクルと指先で踊るシャーペンは白鳥から何気なしに奪ったもの。…返さねぇとなー…。
「私達って付き合ってるんだっけ」
「ぶふっ!」
「うわ、汚い」
「…いきなりどーした」
なーんか実感湧かない、つまらなさそうに俺を横目で見られても困る。俺だってどちらかと言えば、実感なんてないんだから。本人にその旨を伝えれば、だよね!と何故か嬉しそうに笑われた。お前本当に今日はどうしたんだ。
いつもと同じように登校して、昼飯を食って、昼休みを過ごして。恋人同士になって何が変わったかと聞かれれば、帰るときに寮まで送るのが俺オンリーになったとかそれぐらい。
「…高校生のカップルがこれでいいのか?」
「だから私も聞いてるんだよー…」
「……だよなー」
パタリと日誌を閉じてから、名字と同じように頬杖をついては名字の横顔を見つめる。キスもまだだよな、何て頭の隅で思い立った俺は、いつの間にか机に上半身を乗り上げさせて、両手で名字の頬を掴んでいた。
「……犬飼怖い」
「恋人らしいこと、すっか」
「ムードない」
「ムードあったら顔真っ赤にして逃げるくせに?」
「あ、いや…」
はい俺の勝ち。小さく、でも静寂に包まれた教室では十分聞こえるぐらいのリップ音を立てて名字に口付けた。
「…犬飼甘い」
「さっき、宮地のケーキ食った」
「だからかー…」
「……名字」
「……………何」
「顔真っ赤」
「………」
いってぇ!!……頭叩かれた。