「伸ちゃん、木ノ瀬くんは?」
「え?…木ノ瀬くんなら、犬飼先輩達にケーキをぶつけられたから顔を洗いに行ったよ?」

私を見上げながら首を傾げる伸ちゃんの頭を撫でてから、目的の人物を探す為に方向転換をする。大事な後輩の誕生日を祝いたいと思うのは可笑しな事じゃないって会長や白銀さんは、言ってた。だから、この手元にあるケーキだって、無駄には…ならない…はず。

水道に辿り着けば、宮地くんに教室に行っていましたと言われ、その後は寮に戻ってましたよ?と東月くんに言われて、私の足は既にピークを迎えつつある。木ノ瀬くんが避けてる訳でもなさそうだし、今日の運勢悪すぎる…と頭を垂れながら私は屋上庭園に向かう。

寒いからと四六時中離さないマフラーを口元まで上げて、ひやりとした空気に身震いする。長い階段の先にあった扉を開ければ、案外簡単に求めていた後ろ姿を見つけ、私は急いで駆け寄った。

「きーのっせくん!」
「遊びませんよ」
「わ、ごめんって!私なりのジョークだから!」

いつものブレザー姿ではない私服姿からして、犬飼くん達からのケーキダイブのプレゼントは結構ダメージが大きかったみたいだ。私より少しだけ小さな位置にある風に踊る髪を整えるように撫でれば、木ノ瀬くんは小さく息を飲んだ。…何で?

「先輩、今日は何の日か知ってますよね?」
「当たり前。おめでとう、木ノ瀬くん」

ケーキだけどごめんと困ったように笑えば、木ノ瀬くんは私を見てにっこりと笑った。寒さによって赤くなった頬が、やけに目立って見えたのは、彼に言わない方がいいのだろう。

「生まれてきてくれて、ありがとう」

本当に、ありがとう。





▽梓はぴば!