始業式が終わって、私は一人で教室に居た。手許にある携帯を覗けば、着信履歴にまた一つ追加される名前。振動する携帯を眺めていると、後ろから影が差した。何だろうかと後ろを振り返ると、揺れる赤が視界を覆う。

「何してるの?」
「……はい?」
「反応薄いじゃないか!もっとオーバーリアクションで!」

赤いボサボサの三つ編みにゴーグル、首から下げたカメラ。特徴的すぎる相手に私は思わず携帯の通話ボタンを押してしまい、携帯からは小さな声が聞こえた。聞いたことのない声に内心焦りながらも、ゆるゆると握った携帯を耳に当て、もしもし、と呟く。

『よ、良かったあ…!出てくれたんですね!』
「え、と…」
『あ、す、すみません!小熊です!小熊伸也!』
「あ、小熊くん…か」

目の前で如何にも変態くさい笑みを浮かべる彼に悪態を吐きたくなりながらも、私の全神経は小熊くんの声に集中した。───小熊くんが言うには、犬飼が寮に送る担当なのに今日は先に帰ってしまった事の謝罪と、今から犬飼の代わりに自分が迎えに行って寮まで送るとか何とか。その話を聞いて、私の心は決まっていた。

「分かった。じゃあ、二年の神話科の教室で待ってる」
『はい、すぐに向かいます!』

プツリと切れた通話。私は携帯を閉じて目の前の相手に頭を下げた。

「先程は変に驚いてすみません。ネクタイからして三年生ですよね。…此処に何か用でも?」

わざとらしく首を傾げながら目の前の彼に問う。───彼、白銀桜士郎先輩は、カメラを私に向けたかと思うと、パシャリと写真を撮り始めた。画面越しに聞いた事のあった笑い声を小さく漏らしながらも彼は、会いたかったよ、なんて呟く。そんな彼に対して、そうですか、なんてお決まりの言葉を私は返した。




I wanted to meet you

(君に会いたかった)



改訂/20121102