教室に入って犬飼に座れよ、と言われ隣に座る。───…あ、今日から新学期なのかな。そう思いながら、隣の犬飼を無視して机に伏せたまま目を瞑る。視界を横切るピンク色の綺麗な髪の主はこの際スルーだ。何でだろう。関わりたくないと思った。

「おはようございます、犬飼くん」
「おう」

隣で会話を始めた二人に後頭部を向けて、隣の席に目を向けた。目が合えば、逸らされる。何となく気に入らなかったから、私は体を起こして相手に向かって笑った。

「おはよ」
「お、おはよ…!」
「今日って始業式だよね」
「え、あ、うん…!」

頷いた男子にお礼を述べてから私は立ち上がる。まだ時間はあるし、冒険とお手洗いにでも行こう。教室から出ようとすると、後ろから犬飼に声をかけられたので一応振り返って首を傾げる。犬飼は一言、気をつけろよ、と笑ってからピンク色の髪の主と話を再開した。

(………行くか)

変な気合いを入れて、私は教室からゆっくりと廊下へ移動する。キャラとの遭遇率は皆無に等しいと思う。そう思う理由はただ一つしか無い。ヒロインの存在があってこその考えだ。遭遇率が高いのはヒロインである彼女けでいい。───まあ、私的には唯一仲が良い三馬鹿との遭遇率が高ければそれで十分なんだろう。

「……」

そんな下らないことを考えていた、数分前の私、一発殴らせてくれ。息を小さく吐きながら、水色の彼と彼女の横を通り過ぎる。両者共に私をガン見って何ですか、いじめですか。後は教室に戻るだけなのに、なあ。

感じる視線は、とても嫌なものだった。何を考えてそんな視線を送られるのだろう。本当に、面倒な世界に来てしまった。



Tears put it out

(涙が出そうだ)



改訂/20121102