歓喜より先に溢れるように脳を支配したのは疑問。私は、目の前の校舎を見つめたまま息を吐いた。
周りから感じる視線は、私に突き刺さる。スカートにスパッツを履いていても、現実ではジャージばっかだった私には、何故だろう。罰ゲームにしか思えないのだ。取り敢えず、カバンを持ってしっかりとした足取りで歩く。
(───…ゲームの世界かあ…)
よく考えれば分からなくもなかった。昨日、屋上庭園と呼ばれた場所で私を連れて寮まで送り届けてくれたのは、白鳥。──白鳥弥彦だった。今日、私の部屋の前まで来たのは、間違いなく陽日直獅先生だと思う。夢にしては、現実味があって少しだけ眩暈がした。私はこっそりと手許にあった紙を広げる。紙に書かれていたのは、この夢の中での私の事だった。
『二年神話科』
『部活無所属』
『仲が良いのは白鳥弥彦、犬飼隆文、小熊伸也』
これを見てストップをかけたくなる場所ってやっぱり、最後の欄だろう。友達が三人しか居ないってどうなんだろう。サブキャラでもいいからもっと居れば過ごしやすいのに、なんて言ってられない。まあ、兎にも角にも三馬鹿が友達なだけマシなんだろう。一人は同じ神話科だし。
紙を鞄に突っ込んで、辿り着いた下駄箱を模索。私のはどれだろうか。首を傾げながら、キョロキョロと辺りを見渡していたら突然、頭に重力。え、何。ゆっくりて後ろを振り返れば、眼鏡越しに視線がばちりと合って笑顔を向けられた。
「おはよ」
「犬飼…おはよ」
「お前、此処は一年の下駄箱だっつの」
俺等は此処だぜ?と笑いながら指差す犬飼に、呼び方を間違えてなかったと安心しながらお礼を述べる。そうしたら犬飼は、昨日一人で星見したらしいな、と凄い笑顔で詰め寄ってきた。正直に私は小さく頷く。近くにあのキャラクターが居るんだと思うと少しばかり緊張したけれど。───…大丈夫。私は口を開いて、今世紀最大の嘘を吐いた。
「一人が良かった、から」
別に一人がいいなんて思ってないよ、うん。逆に私が起きた時に一人だった訳で誰も悪くないと思う。そんな思いを抱きながら言えば、犬飼は一瞬だけ口を閉じて、笑った。ぐしゃぐしゃと撫でる手に、苛立ちを覚えながらも早く行こうと急かせば犬飼も歩き出すのだった。
(現実味が強い、なあ…)
頭に触れる温もりも、風のざわめきも、視界の端に映る桜も、全部が全部、私に夢じゃないよと告げているような気がして、私は戸惑いながらも犬飼の隣をただひたすら歩き続ける。ああ、全部夢であればいいのに。
Look at the moon star
(月を眺める星)
改訂/20121102