兎に角、俺は屋上庭園に向かって走っていた。理由はとても簡単で、学園で二人しかいない女子の内の一人である友人を探す為だったからだ。
友人だって事は表沙汰にしていない。何てったって目立つ事を嫌う彼女だから、学園のマドンナと称されるあの子が居る弓道部の人間と関わる事が面倒らしい。
──皮肉にも、俺は入学した時から彼女と話をしたりしていたから許されているらしい。不思議だよなあ。なんて思いながら、俺は最後の階段を踏みしめて扉を開けた。
(……お、発見!)
女子の平均身長より大きめの背丈、肩まで伸ばされた黒い髪。俺の探し求めていた彼女は、月を眺めながら立ち尽くしていた。その背中に向かって声を掛ければ、驚いたように振り返って俺を見つめる。
(………あれ?)
少しだけいつもより焦ったような、戸惑ったような色を見せる彼女を不思議に思いながらも、俺の口は止まらない。兎に角、俺は彼女の隣に並び、同じように空を見上げた。
───今なら何が見えるかな。そう思いながら空を見ていたら、彼女は小さく息を吐いた。
「お前神話科なんだからさ、犬飼辺り呼ぶぐらいしろよ」
ふと思った事を笑みと共に彼女に向ければ、彼女は申し訳無さそうに眉を下げて笑う。いつもより戸惑いが強い笑みに俺は少しだけ、唸りながら頭を掻いた。けど、気にしない方がいいのかもしれない。彼女は彼女だし、俺が口出しをするような問題じゃない。
彼女の手をとって、俺は彼女に笑いかけた。
「旭川、行くぞ!」
「──あ、」
俺が歩き出せばついて来る旭川。俺の空っぽな頭じゃ何も分からないけど、何となく、この空を見て、何かが変わった事を悟った。
The sky was all dark
(空は真っ暗だった)
改訂/20120817