目を開ければそこは真っ暗な場所で、私は倒れていた体を起こした。周りを見渡せば、何処かの建物の屋上のようで、私は首を傾げる。声は少しだけ掠れて出にくいので、私は喉を冷えきっている指で数回撫でた。

(…うわ、)

暗闇に慣れた視界に映るのは満天の夜空。輝く星、その中心に居ると言わんばかりに堂々と輝きを放つ月。私は、息を飲んだ。───幸か不幸か、この場所には私以外誰も居ない。ゆっくりと立ち上がりながらも私はフェンスに向かって歩き出そうと足を踏み出した。

───此処は何処だろう。ハッとしながらも私の視線は空に向かっている。そりゃあ、学校生活やら何たらで空をじっくり眺める時間なんて無かったから、しょうがないかもしれないけど。

「あ、居た!」

突然後ろから聞こえた声に私は飛び上がる勢いで振り返った。───そんな私に抑えようともしない笑い声を響かせながらも、暗闇の相手はカツリと足音を鳴らした。もしかしたら私の知り合い、だろうか。

───でも、知ってたら声で分かるし、一体誰なんだろう。

少しずつ近付く相手に、私は目を凝らして姿を確認しようとする。どうやら相手には私の顔が見えてるらしい。私を見て、変な顔だな!と陽気に笑うのが揺れる空気によって感じられた。そして、現れたのは。

「一人で星見るとかずるくないかー?」

──全く知らない人だ。けど、私に向ける無邪気かつ陽気な笑顔は知らない人物に向けるのはおかしいぐらい優しげで。私は、引き攣る顔と表情筋をぐっと抑えて笑みを向ける。茶色の髪を風で揺らしながらも彼は小さく笑みを零した。

「学園で二人しか居ない女子が、しかも俺を置いて一人で屋上庭園に来るもんじゃないだろ?」
「あ、はい」
「…何で敬語?」
「……何となく、」

私がそう言えばいつの間にか彼は真横に立って空を見上げていた。彼が着ているのは、凄くおしゃれな制服らしき物──と言うか、奇抜過ぎて私にはよく分からない。

「お前神話科なんだからさ、犬飼辺り呼ぶぐらいしろよ」

笑顔でそんな事を言うものだから私は頷くしかなかった。そんな私は気付かない。彼が言う屋上庭園から見える木々に桜が咲いていて、私の居た所では桜が咲く季節なんかじゃないって事を。

───学園に女子が二人しかいないって言うワード、彼の姿に、私は気付かなかった。




With cradle of crescent

(三日月の揺りかごで)



改訂/20120817