五月上旬。この星月学園に教育実習生が来たらしい。こんなイベントはゲームでなかったのに、と思いながらも私の左隣の机に突っ伏したままの犬飼の言葉に耳を傾けた。
「確かー…ここの卒業生だとかうんたらかんたらって聞いたぞ」
「犬飼くん、それでは卒業生だと言うことしかわかりませんよ?」
犬飼の前の席に座ってる青空颯斗のことは、もう私は気にしない。むしろ空気として扱わせてもらうから逆に申し訳ない気持ちでいっぱいだったり、そうじゃなかったりする。どこの科に来たのか、私以外のクラスメートは知ってるらしく、気になった私は犬飼に言葉を投げつけた。
「んー?あー…夜久がいる天文科らしいぞ」
「え…嘘」
「…何かあるんですか?」
ナチュラルに私に話しかけてくる青空颯斗に曖昧に笑い返してから、犬飼に続きを促す。犬飼は、俺が知ってるのはこれだけだからー…と眠る体勢になって、少し経てば静かな寝息を立て始めた。
「……寝てしまいましたね」
「……うん」
やばい、凄く気まずい。…私も寝てしまおうと机に伏せかけた瞬間、旭川さん、と優しげな声色で呼ばれて勢いよく振り向いてしまった。振り向いた先にはさっきまで話をしていた青空颯斗であって、私の顔は凄く酷いのかもしれない(何か、頭痛いし…)。
「久しぶりにしっかり話をしますね」
「え、あ…そうだね」
「ふふ、少し気まずく感じてますよね…?」
困ったように笑う青空颯斗に私の思考はぐるぐるだ、どうしたらいいのこれ。話によると一年生の頃の私は彼と少しだけ話したことがあるみたいだ。これは、…頑張らなきゃいけなかったりする?
「何か、ごめんね…青空くん」
「いえ、これからも普通に話していただければ十分ですよ」
そうやって笑う彼に何となく、申し訳なくなった私は眠っている犬飼の頭を叩いて起こした。欠伸をして涙目になった犬飼に向かって天文科に向かおうと提案してみた。犬飼は気怠げに立ち上がってから顎で扉を指して、ゆっくりと歩き出した。
「青空くん、行こっか?」
「ええ、行きましょう」
Can I grow up?
(僕は大人になれるのかな)