「先生、子供みたい」
「…遠回しにチビって言ってるだろ」
「いやいや、ないない」
今日も今日とて、昼食をどうしようかと考えたら何故か天文科担任の陽日直獅先生に食堂に引っ張られてきた。疑問符を飛ばしながらも座る私を見て、笑いながら獅子座定食をトレーごと渡した先生は少しだけ目を輝かせている。
「改めて、今年もよろしくな!」
「……は?」
「いや、去年も色々あっただろ?今年は旭川に友達を作らせるんだ!もちろん、犬飼達以外だけどな!」
「……」
先生は知ってるんだ、なんて言葉は飲み込んで私は獅子座定食に箸をつけた。もぐもぐと口を動かしていれば、先生は溜め息を吐きながら相変わらずだな、なんて笑った。私は目を細めて先生を見て、小さく頷く(流石に口に物を入れたまま私は喋る人間じゃない)。
「と言うか…」
「ん?」
「これ、先生の奢り?」
敬語なんてくそ食らえ。なんて今朝の夢に出たからなのか何なのか、普通にタメ口で話した私に先生は嬉しそうに口元を緩ませては大きく頷いた。
「今日も生徒達の罠に引っかかってな!」
「…何で胸張れるの」
「え、あ、いや…な?」
自分でも可笑しいと気付いたのか、先生は顔をうっすら赤くしながらも手前にあった獅子座定食をがつがつと口に詰め込んで誤魔化し始めた。私は取り敢えず、先に食べ終わってしまったので箸を置いて両手を合わせた。───…うん、美味しかった。食堂のおばちゃんの料理は本当に美味しいんだな、なんて思いながらも、目の前で喉を詰まらせて顔を赤くしたり青くしたり忙しい先生に水を差し出す事にした。
突如、聞き慣れた声がして前を向けば、顔はいいのに性格が微妙に残念な友人がもう一人の友人に泣きついていた。周りは慣れてるのか悉(ことごと)くスルーしているらしい。白鳥が可哀想すぎやしないかな。
「俺だって犬飼みたいに堂々としーたーいいい!!」
「お前はこの間、忘れてんだろ」
「人のこと、…っ言えんのかあああ!」
何を話してるのかよく分からないけれど、うるさいことに変わりはない。私は即座に携帯を取り出し、すぐさまメールを送り込んだ。犬飼達の傍でおろおろと成り行きを見てたであろう小熊くんは、自身の携帯を犬飼達に見せて小さく笑った。
「何、笑ってんだ?」
「青春謳歌、って奴」
「そーかそーか!」
嬉しそうに笑う陽日先生にミーハー心が思わず疼いた私は、笑い返しながら言葉を紡いだ。
「直ちゃん、今年もよろしく」
去年を知らない私だけど、それはそれでいいじゃないのかな。ポケットになおした携帯が小さく震えているのを感じながらも、私は食堂の景色と先生の顔を眺めた。
(……直ちゃん呼び、いいかも)
なんて決して思っていない。
Same difference.
(どちらにしろ大差もない)
改訂/20130105