「あれ、…この写真」

幼なじみがついこの間の星見会での写真を現像していたらしく、机に広げたまま眠っていた。俺と月子に羊。それぞれが真っ暗な闇を背に笑って何かを話している姿。いつの間に撮ったんだか。

溜め息を吐きながらもそれを見つめる。映っている自身含め三人がとても自然体で、雰囲気がとても優しい写真だった。相変わらず幼なじみである彼は、写真を撮る事が好きみたいだ。あまり自身を撮らないという部分はいただけないけれど、な。

それは、羊が月子の背中に抱きついて空を指さしている写真。

俺が月子に弁当を差し出して、羊が羨ましげにそれを見ている写真。

偶に端々に入っている弓道部の人達や先生に生徒会の人達と月子の写真。

「あ、」

不意に落ちた一枚の写真をしゃがみこんで取ろうとすれば、それは違う誰かの手に止められた。小さく驚きの声を上げれば、赤い髪とぴんっと立ったアホ毛が見えてその持ち主の名前を俺の口は早々に呟く。

「───…これ、この前の?」
「…そうみたいだな」
「……哉太、彼女と知り合いなんだ?」

言外に錫也も?と問われているようで訳が分からなくなった俺は、しゃがみこんだまま羊を見つめた。羊は不思議そうに目を瞬かせた後に、少しだけ口角を吊り上げては、今まで見つめていた写真を俺に見せてくれた。

「神話科の女の子なんだって」

そこに写っているのは、少しだけ照れくさそうに笑う哉太と黒のパーカーに身を包んで嬉しそうに笑う女の子が居た。俺は多分、あまり見せない驚きに満ちた顔をしてるかもしれない。一度だけ見たことがある、彼女。彼女が、神話科の…。

「………」
「…錫也?」
「───いや、何でもない。多分、哉太とは知り合いなんだろうな。俺とあいつはそれさえ知らなかったし、」
「さっき彼女に会ったんだ。変な子だったけどね」

俺の言葉を遮った羊は、少しだけ陰りを見せたけれど小さく、小さく笑顔を零した。

「また会えるといいね。月子も喜ぶ」
「……だな」

俺の心は何故か複雑なままだった。






A lie for you

(君のための嘘)


改訂/20130105