星見会に連れて来られた私は一人で空を見上げていた。
◆
屋上庭園を見渡してみれば色とりどりの色が揺れて、月に照らされている。ほう、と息を吐けば春なのに白い息が空に揺れた。私服である黒のパーカーをかぶって闇に紛れるように私は潜むように空を見つめた。
こういう時にこそ、犬飼達が居ればまだマシなんだろうな。なんて思ったり思わなかったりする。
「…旭川!」
「…!」
いきなり背後で名前を呼ばれて肩が跳ねた私はゆっくりと振り向いた。驚いた私を見て申し訳なさそうに頭を掻く彼はついこの間、喧嘩をしていた同級生だった。
「…七海くん?」
「あっ、と……悪い」
「いや、全然…」
声をかけてきたのは七海くんだけどオーバーリアクションを盛大に披露したのは私だしね、と笑って言えば七海くんは小さく頷いて笑い返してくれた。ひとしきり笑ってから何の用か聞いてみれば星を一緒に見ないか、と言ったお誘いだった。
(…嬉しいけど、さ)
私が幼なじみの中に入るのは抵抗がある。いや、本当に嬉しいんだけどね。私が渋るような素振りを見せたからか、誘うだけで眉を寄せていた七海くんが不思議そうに私を呼んだ。だから、つい、私は、
「幼なじみさんに悪いし…」
「……はあ?」
声に出してたのか、と思いながら私は視線を泳がせた。意味が分からないと言った顔で私を見る七海くんに苦笑を浮かべてからゆっくりとパーカーをずらす。
そこから覗くのは七海くんの思案する顔と右手に包まれているデジカメ。ゲームと一緒でカメラが好きなんだなあと思いながらジッとカメラを私は見つめた。そんな私に首を傾げる七海くんは自分のカメラに視線を移してから小さく笑う。
「───…一緒に撮るか」
「へ、は…っ!」
ぐいっと引っ張られて七海くんの横に並べられた私は目を丸くするしかなかった。そんな私の様子に気付いていないのか、七海くんは私をカメラの枠に入るように肩を寄せた。
「出来たら絶対に渡すからさ」
にっと笑った七海くんは私にカメラを見るように促してシャッターを押した。私は笑みを浮かべてカメラを見つめる。あいつ等が駄目ならせめて俺と星見て撮るか、と撮った後に言った彼に私は笑みを返す事しか出来なかった。
七海くんのカメラの向こうから見えた犬飼達が私に向かって手を振っていたのが見えた。ちらりと見えた彼の幼なじみには視線は移さない。
Where did you go?
(君は何処に行ったの?)
改訂/20130105