周りには、死屍累々。木の幹に、凭れて眠る鳥の巣頭の人が一人。

白銀先輩に質問責めにあって小熊くんに迎えに来てもらった始業式から、今日で三日経っていた。昼食を食べるために食堂に行くのが嫌で今日まで食べずに朝晩だけで済ませていたので今日も食べないで昼休みを過ごそうとしていたんだけど。

(───…喧嘩、かな…)

赤いネクタイ=同学年。この三日間で見たことのない顔だから神話科じゃ無いんだろうな、と思いつつも足を進めた。木の幹で寝てる人を放っといて、倒れ込んでる人達を起こす事にした私はぺちっ、と軽快な音を立てさせながらも男子生徒の頬を叩いた。

「んっ…あ、」
「…、大丈夫ですか?」
「う、…うわっ!?」

何で私が怯えられなきゃなんないんだ。とにかく殴られた頬らしき所に奇跡的に手元にあったハンカチを当てる。痛みの有無を問えば、大丈夫だと相手は笑った。私はハンカチを持たせて教室に戻るように促せば、相手は木の幹に眠る彼を見つめて頭を掻く。

「なあ」
「…はい?」
「あいつに言っといてくれよ。悪気は無いって」
「は」
「ま、悪かったってことだけな。頼むわ」

爽やかに笑う相手に私は曖昧に頷いてから立ち上がる。彼は周りの人達も一人ずつ起こしては教室に戻って行った。それを見送った後に私が眠る彼をしっかりと視界に捉えればピシっと固まる体。少しだけ汗をかいてる彼、七海哉太を見て違った意味での汗が額を伝うのを感じ、思わず座り込んでしまう。

取り敢えず、頼まれた伝言を伝えなきゃいけないと思った私は、彼の肩を掴んで少しだけ揺らした。身を捩りながらも小さく聞こえたのは幼なじみの名前。場違いかもしれないけど、何か和んでしまうのは無理もないはず。そっと開かれた瞳から目を逸らして、起きました?と私は問うた。

「ん、…あ?」
「喧嘩、したらしいですね」

少しだけ擦れた地面を指差しながら言えば、目を擦りながらも七海哉太は頷いた。目の前にある色素の薄い髪にミーハー心がうずくのを感じて、ぐっと堪えた。私偉い。

「っ、あれ…あいつ等は?」
「さっき貴方に『俺達に悪気は無かったんだ』と伝えるように私に言って帰りました」
「…マジかよ」

頭を抱える七海哉太に首を傾げていたら、小さく聞こえた言葉。俺突っ走りすぎじゃねえか…!彼らしいな、なんて思いながら笑えば、バッと顔を上げる七海哉太もとい七海くん(何回も七海哉太呼びはしんどい)。次第に眉間に寄せていた皺を緩めて私を見つめる目が見開いていく。

「お、おおおおおっ…女!?」

今まで気付いてなかったんかい!なんてツッコミを心の中で披露しながら笑えば、神話科?と七海くんに聞かれ、私は素直に頷き返す。頭を掻きながら、サンキューなと笑って言う彼に訳が分からず返事を返さなかったら、伝言だよ!バーカ!なんて言われた。

「───…ところでお前、名前何て言うんだ?」

取り敢えずムカついたので頭、殴ります。




Off-limits

(立ち入り禁止)


改訂/20130105