家に帰ると祖母がご飯を用意してくれていた。

味噌汁やらあじの開きやらが食卓に並ぶ。


死んだ母とは違い、和食がほとんどで洋食は父が珍しく作った時以外出なかった。

それが嫌なのかと聞かれると別にそうでもなく、お婆ちゃんが作るご飯も美味しい。
それに洋食が出るとなんとなく母の顔が浮かぶのも理由なんだと思う。



一年と数ヶ月は経ってはいてもやはり記憶が蘇ることは多々ある。

でも前から強いから人前でなんか泣くことはなかった。

母が亡くなった日以来、人前でなんか涙は出さなかった。



なのに…

なんでだろうか?


なぜ私は……


泣いた?





―――――――――


「逆ギレスか?」


「え?」


「キレたいのはこっちの方っスよ。人の事嗅ぎつけて俺に息抜きくらいさせて欲しいっス。」


「意味わかんないっ」


「あーもういいっス。」


そう言って彼は私とは逆方向へ歩いて行った。


「待って、あなたなにかご…か……




私はいいかけて止めた。彼は私を悲しい目で見て行ってしまった。


あの人は誰だったのだろうか、
なぜあの時あんな目をしたのだろうか、
よくわからない質問が頭の中でグルグルしていた。

でもあの目は私がよく知っていた。

誰も信じたくない目だ。
誰かを疑って、自分だけが不幸みたいに気取って…

あの時の私の目だった。



あれから、私はあの教室を出て家に帰ろうと校門に向かった。


「どうかしましたか?みよじさん?」


「うわっ」


誰もいないと思っていたので女子とは思えない声が出てしまった。よく見ると同じクラスの友達に声をかけられていた。


「なんだ黒子君か!ビックリしたー。今部活終わり?」


「驚かすつもりはなかったんですが…すみません。はい、しかし、今から自主練習です。僕バスケ下手なので…」


「じゃあ、1on1しようよ!私と。これでもバスケ上手いんだ、私!!」



半ば強制的に1対1を申し込み、私は上履きで体育館へ入った。


中はさすが私立校で綺麗だった。


久しぶりの体育館でテンションが上がりとりあえず荷物をわきに置いてその隣に母の形見を置いておいた。


「みよじさんはいつもカメラ持ってますよね。そんなに大切なものなんですか?」


「うん。私のお母さんの形見なんだ。コレ」


「えっと、すみません。」


「ううん謝らないで。私さ、小さい頃からバスケが好きでミニバスをしてたんだ。ほいっ」


昔話と同時に黒子君にボールを渡す。


「試合なんかはお父さんもお母さんも仕事忙しくて見に来てはくれなかったんだ。でも一度だけ見に来てくれたことがあってね、その時の二人なんか私より勝利を喜んでくれて…」


黒子君がタイミングを見計らって私にボールを返す。


「私が入れたシュートの数とかDFでの活躍とか知らない人にまで言っててあの時は本当に恥ずかしかった。」


そのまま私はシュートフォームに入る。
驚いた黒子君はすぐさまチェックに入る。


「でも本当は私にバスケを続けさせたかったのかもなとか、うすうす分かってた。だから、あんなに…私も言えば良かったよね、もうバスケ出来ないんだってこと。」


が、黒子君の腰がういたと同時に私は横を通り抜ける。


ボールはそのままゴールに吸い込まれた。



「あの日私、あの人みたいな顔してお母さんを睨んじゃったんだ。あの時はこうなるとは思わなかったから。まだ謝ってないのに…自分が睨まれて気づいて…ごめんなさい。隠してて…ごめんなさい。」



吸い込まれたボールは三、四回跳ねて転がった。


あの日以来泣いていなかったからか予想外の涙は止まってくれず、私は人前で久しぶりに弱いところを見せてしまった。



泣いたら負け




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