小さい頃私の母はよくこのカメラで私を撮っていた。
そんな私は写真とかは格段好きな訳ではないが、母の撮る写真だけは特別視をしていた。


木が生い茂る森林だったり、書院造りのように和がにじみ出た建物、例えば世界遺産であるものだったり、美しいけれどもインパクトのあるものだったりと様々な宝物を母は私に見せてくれた。


そんな中には私の満面の笑顔の写真が数枚あった。


乳歯がちょうど生えかわる時で前歯が一本抜けて笑ってる顔、お父さんと三人で行った時のマスコットキャラクターとのツーショット。



一枚のものから七色を造るマジシャン。いつしか母にはそんな異名がついていた。



事が起きたのは私の私立中学の受験の当日だった。


前々から入りたかった名門校で難関の高校に入るにはそこが一番適していたので父や母に反対されても自分の意見を押し通した。




『お母さん…お母さんが!!』



面接が終わった私が電話に出ると、明らかに焦った父の声が鼓膜を震わせた。


急いで指定された病院へ向かうと母はもう目を開けてはくれなかった。






原因は子供をかばっての交通事故だった。


車(あいて)も猛スピードだったらしく母は即死だったそうだ。



お父さんは一通り事情を話し終えると一枚の写真とともにこのカメラをくれた。


母が大切にしていたカメラと私の写真だった。


そこには真新しい制服の私が校門の前で笑っていた。おそらくこれは小学校の入学式のものだ。


俗に言うお受験に合格して六年間育った、今じゃ見慣れた校舎が一緒に写っていた。


今更何だろう?と思い父に目を向けると、裏を見なさいと言われ裏に返す。すると、本来白いはずの裏に黒い油性ペンで母の文字が並んでいた。





――――――――


なまえ、入学おめでとう。

もっと私にその笑顔を見せてね。


中学校は私とお父さんが通った帝光中かな?


――――――――




思いもしれない言葉に、私は大声を出して泣いてしまった。









あれから数日、私は父の実家に暮らすことになり、受験した学校には申し訳ないが、違う私立校に通うことになった。

それがここ、帝光中学。

父、そして母が三年間通ったこの校舎でたくさんの笑顔を撮りたい。そんな志望動機とともに…。



そして母からの大切なカメラを持って私は写真部に入った。




過去と出来事





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