それから、萌子の家を出て自分の家に向かった。きっと両親は心配してるかな…
そのあと萌子に聞かれたことは凄く頭に残った。
――好きじゃないの?
私がもしバッターだとしたらはやすぎて見送ってしまっただろう言葉。
これじゃツーアウト二塁三塁、一点差の負けられない試合に私は三振してバッターアウトのゲームセットになってしまう。
なんというラストバッターだ……
でも打てないものはしょうがない。
でももし打ち返すとしたら"わからない"しかない。
二海堂君も浅村君も大切。
洸さんだって白銀さんだって綾だって大切。
でもこの大切な人の中で好きな人はいるのか?と言われると"わからない"が一番適切なんだ。
恋というものが分からないから。
知らないから。
「やっと見つけた。どこ行ってたんだ、馬鹿じゃねーのか、綺羅!!」
考え事をしていた私に突如降りかかる声。
でもその声を聞いたときなぜか安心した。
けどその声は息が切れていて私をずっと探してたのがわかった。
そしてその声が私に一歩ずつ近づく。
それからその声の持ち主は……
「心配かけんじゃねーよ」
そうぶっきらぼうに私を優しく抱きしめてくれた。
今まで気づかないフリをしていた。
この温もりを欲しがったら君を失うと思ったから。
そう思ってたから。
だから曖昧な言葉で隠してきた。
その人の優しさに自分が触れてしまうが怖かった。
その人を自分の手で傷つけてしまうのが怖かった。
その人を知るのが…
でも、萌子、やっとわかったよ。
私、好きなんだ。
きっと………
二海堂君の事が。
消失の影――end
次はあとがき。
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