チャイムが遠くから聞こえてくる。

「早くしろ長曾我部、我が遅刻など許されぬ!」
「これが精一杯だっての!てか人のバイクに乗っけて貰ってる奴の台詞かよそれ…」

まさに時間との戦い。
朝は恐い。



《チャイム攻防戦!》



「あーあ、本鈴鳴っちまった」
「ふ、不覚…」

元親と元就は学校から100メートル程離れたコンビニ前で立ち往生していた。完全なる遅刻である。
信号に引っ掛かりコンビニの駐車場から回り道しようとしたが、丁度タイムアップ。
いつもの元親なら一限位とサボるのだが、後部座席の元就の呆然とした顔が見ていられず一緒に立ち往生している…が。

「チッ、んな所に居たってしょうがねえ…フケんぞ」
「…我が遅刻我が遅刻生徒会長としての威厳が損なわれ……」
「…呪文みてーに唱えてんじゃねー!もう遅刻は遅刻なんだよ!」

生徒会長である元就がまるで亡霊の様なか細い声で呟き続けるのに、とうとう我慢出来ずに元親は頭を掻きながら禁断の手を使う事に決めた。

今まで誰にも教えた事の無い…



元親は元就の事が好きだった。


.
「いいか、見つかんじゃねーぞ」
「う、腕が痛い…」
「しっかりしろよ、こっから入るしかないんだから」

体育館裏、用具室前窓。その杜撰な管理でいつも鍵が開きっぱなしの窓枠に手を掛け、元就は元親に肩車させながら必死に入り込もうと頑張っていた。

「んっ…駄目だ、もうっ…」
「オイ、声奮えてんぞ大丈夫か!?」

肩車の為に平常心ではいられない元親だが、流石に限界らしい元就に気付いて下ろしてやる。

「はあーっ、はあっー…我には無理だ、貴様の様に脳まで筋肉で出来てはおらぬ」
「俺の脳ミソは筋肉じゃねー!」

元親はとうとうキレて壁を蹴飛ばした。

「長曾我部!」

ガッシャン!

「「あ」」

古びていた窓の格子が衝撃で外れてしまった。

「…貴様、なかなかやるな」
「…おうよ」

偶然なのだが。
また元親が肩車をして元就が窓を開け、今度は無事成功。元就は体育用具室へと侵入を果たす。

「よっと」
「…貴様っ!?」

自分が必死に壁にしがみつき、そればかりか元親に太股を掴んで押し上げて貰う程苦労してよじ登った窓を、彼がひょいっと手も借りずに軽く登ってきた。

「貴様、まさか我を行かせたのは我の尻を揉む為」「しー!ち、ち、違ぇからでかい声出すな!!」
「…むぐっ、ほんほーは?」

思わず手で元就の口元を塞いでしまったのに気付き心中穏やかならぬ元親だが、表に出さぬ様に抑えて「本当だ」と答える。

「よし、これから上手く此処から出て保健室に潜り込めばオッケーだな」
「明智先生…どうせその辺りをフラフラしているであろうからな」

こそこそと小声で企みを話し合う彼等の顔に光が当たった。

「おっと…長曾我部に毛利、何してんだ?遅刻か」

「「え」」

「か、片倉先生!」

先に反応したのは元親だった。

「こ、これにはワケがあってよ…」
「いつも呼び捨ての癖にどうした?」

密かな元就への想いが彼を庇おうとさせたのだが…

「片倉先生、我が間違っていました!」
「え!?」
「我は長曾我部の遅刻偽装の片棒を担がんとしていたのです。ですから深く反省し、頭痛薬を飲んで授業に復帰致します」
「お、おう。行っていいぜ…」

そのよく分からない言い訳にも気付かず呆然と元就の背中を見送る元親は、一時間目を小十郎の説教に費やすのだった。



しかし、忘れて行った鞄を元就に届け、流石に悪いと思った彼に昼食を奢って貰えるのを、まだ元親は知る由もない。



終.


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