「そんじゃ、俺は解説でもしようかな」

「アンタ絶対楽しんでるだろ、この状況」

楽しげに呟く慶次に、じっとりとした目付きで政宗は言う。当事者でなく傍観者という立場であれば、この状況はなかなかに楽しいようだ。

慶次の提案に賛同した幸村たち3人は、じゃんけんで順番を決め始めた。何度かあいこを繰り返していたが、なんとか殴り合いに発展する前に決着はついたらしい。

一番手は幸村であった。並んで立つ家康と忠勝に向かって、幸村はまず深々と頭を下げる。その礼儀正しさは流石という他ない。

そして、バッと勢いよく顔を上げると、目をかっ開いて思いの丈をぶつけ始めた。

「そ、某と共に生きてくだされ、忠勝殿!この幸村、誠心誠意全力で忠勝殿を幸せにしてみせますぞ!2人で殴り合って、熱くたぎる日々を過ごしましょうぞ!」

「な、殴り合いだと!?」

拳を握り締め、無駄に熱く思いを告げる幸村。その内容に、家康は目を丸くして驚いている。それも無理はない。殴り合って幸せにする、というかなり矛盾したことを言っているのだから。

忠勝はピクリとも反応しないので、何を考えているのか分からない。家康は渋面を作っている。

「やっぱ恋は押しの一手だね。熱く押して押して押しまくれば、相手もイチコロだよ」

幸村の告白を眺めていた慶次が、先ほどの宣言通りに解説をしていた。しかし、その解説内容はどこかズレている。

言いたいことを言い終えた幸村は、再び一礼をして元の場所へと戻って行った。それと交代で、元親が忠勝たちの前に立った。次はこの男の番らしい。

肩に掛けた衣服を風になびかせながら、元親は満面の笑みで忠勝を誘い始めた。

「なぁ、忠勝!俺と一緒に四国に来ねぇか?新鮮な海の幸と旨い酒でもてなしてやるぜ!そんで、一緒に海で泳いで沖まで競おうぜ!」

「う、海はダメだぞ!」

海の男らしい豪快な告白をする元親。その内容に、家康は慌てた。海などで泳いだら錆びる心配があるのだろう。

忠勝はやはり微動だにしない。元親の言う新鮮な海の幸や旨い酒には、あまり興味がないようだ。

「恋人同士なら、やっぱ海で追い駆けっこだよねぇ」

1人満足げに語る慶次は、活き活きとした表情をしている。しかし、その解説は相変わらずどこかおかしい。

忠勝と家康に対して、グッと親指を立てて挨拶をした元親は、颯爽とその場から離れた。それと交代するように、毛利が忠勝の前へと進み出る。最後はこの男のようだ。

毛利は手にしていた輪刀を天に掲げ、ハキハキとした声で忠勝を勧誘し始めた。

「我らがザビー教に入信すれば、楽園のような城で毎日幸せに暮らすことが出来よう。そして、ザビー様の愛に洗脳されれば、生きながら極楽にいる気分を味わえるのだ!」

「せ、洗脳って言い切ってんじゃねーか!」

怪しさ大爆発なことを清々しく言い放つ毛利。その内容に家康は狼狽えた。洗脳されると分かっていて、ついていく者もいないだろう。

当の忠勝は動揺することもなく、先ほどと同じように立っていた。その様子から、何を考えているのか窺うことは出来ない。

「恋は盲目って言葉もあるしねぇ。ある意味洗脳に近いよね」

ニコニコとした笑顔で慶次は語るが、もはや政宗には何を言っているのか理解出来なかった。ここまで来ると、適当なことを言っているのではないかと思えてくる。

毛利は爽やかとは程遠い笑みを浮かべた後、忠勝たちの前から立ち去った。

これで一通りは終わった。あとは忠勝に選んでもらうだけだ。毛利は絶対にない。幸村もないだろう。もしかしたら元親は良い所まで行っているかもしれないが、忠勝が家康の元を離れるとは思えない。

呑気にそんな予想をしている政宗に、あり得ない言葉が聞こえてきた。

「んじゃ、最後に奥州名物の伊達政宗さん」

「ちょっと待て!なんでオレが参加することになってんだ!?」

唐突に名を呼ばれ、政宗は驚いた。何故、自分が参加しなくてはならないのか。そもそも、忠勝を欲しいとは思っていない。幸村に仲人をしてくれと頼まれて、ここにいるだけなのだ。

慶次にそう説明していると、妙な気配に気付いた。ある方向からの殺気混じりの視線が、政宗の背中に突き刺さる。

「も、もしや政宗殿……仲人をすると某を騙して、実は忠勝殿を狙っておられたのか?」

「何ワケの分かんねーこと言ってんだ!ていうか、憎しみに満ちた目でこっち見んな!」

幸村はギリギリと唇を噛み締めて、政宗を見つめる。純粋な男の嫉妬というのは、案外恐ろしい。




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