「おーおー、派手にやってるねー!」

また何か沸いて出やがった。もはや政宗には、驚く気力も突っ込む体力も残されていなかった。

声の主は、諸国をフラフラ遊び歩いている前田の風来坊こと、前田慶次である。風の吹くまま気の向くままに各地を旅している慶次は、偶然この場に立ち会ってしまったらしい。

「恋のいさかいある場所にゃ、この前田慶次あり!ってね」

「ただの野次馬じゃねーか」

へー、と政宗は小さく溜め息を吐く。恋の素晴らしさを色々な人物に説いて回っている慶次は、人の色恋沙汰にやたらと首を突っ込みたがる。それを野次馬と言わずして、何と呼べば良いのか。

野次馬呼ばわりする政宗に、慶次は口を尖らせて抗議する。本人としては、かなり心外のようだ。

「全っ然、違うってば!俺はいさかいを静めるために来たんだってば!」

「へぇ、アレが恋のいさかいに見えるのか?」

政宗は睨み合う3人を指差して問う。どこをどう見ても、恋のいさかいには見えない。

元親はカラクリ兵器造りの見本に、元就に至ってはザビー教の御神体にするという目的で忠勝を狙っている。幸村の場合は恋と言えなくもないが、恋というよりは変に近いと政宗は思う。

「いやぁ、良いよねぇ。一人の人物を巡って、惚れたはれたの大喧嘩!」

「アンタの目は節穴か」

この男もダメだ。何故こうもダメダメな奴らばかり集まってくるのか。まともに感じられる人物がここにはいない。いや、辛うじて徳川主従だけは常識が通じそうである。彼らも巻き込まれた被害者であるので、同じ境遇の政宗は同情を禁じ得なかった。

1人脱力する政宗を置いて、慶次は紛糾している3人に近付いていった。慶次の登場に、新たな敵の出現かと3人は身構えた。

そんな彼らに対して、新たな闖入者は明るい声で話しかけたのである。

「よっ、お三方!話は聞いたよ。こうなりゃいっそのこと、勝負で決めちまいなよ!」

「勝負ぅ?」

慶次の提案に、元親が怪訝そうな声を上げた。突然湧いて出た人物に、勝負をすすめられれば訝しむのも当然だろう。

しかし、今にも武器を構えて戦い始めそうだった彼らに対して、勝負をすすめる意味はあるのだろうか。政宗もそれが疑問だった。

よく分からないという顔をする政宗や幸村たちに、慶次は苦笑いしながら詳細を語り出した。

「勝負っつっても、実際戦うわけじゃないよ。思いの丈を告白して、誰が忠勝に相応しいのか、本人に決めてもらうのさ」

人差し指を立てて、慶次は簡単に説明する。要は、忠勝本人に好きな奴を選んでもらうということだ。血生臭い勝負ではなく、忠勝を必要としている思いを情熱的且つ上手く伝える勝負なので、特に身体的危険もない。

しかし、告白合戦をして一番良いと思える人物を、忠勝がこの3人の中から選べるのだろうか。あの幸村に元親、さらに毛利という面子である。政宗ならば絶対に選べない。誰も選びたくない。

それに、きちんとした主がいるのだ。その主は慶次に向かって、抗議の声を上げた。

「ちょっと待て、勝手に話を進めるなー!忠勝が選べなかったらどうする!?」

「この3人が気にいらなきゃ、家康のとこに残るってコトでどうよ?」

なるほど、と政宗は思った。3人とも不可と忠勝が判断すれば、自動的に家康の元に残ることが出来る。これなら家康も文句はないだろう。

そして、これは政宗にとっても好都合な条件であった。幸村が選ばれなかったとしても、政宗の仲人のせいではない。幸村本人の資質に問題があるのと、忠勝と家康の絆が深いのが大きな原因だと言い繕うことが出来る。

だから、幸村の恋事情が上手くいかなくても、仲人をやったことは事実なので、約束通り奥州へと一緒に行ってもらえるはずだ。

「そいつはnice idea……良い案だぜ!本人に決めてもらった方が話も早ぇしな!」

「あぁ、それならわしも文句はねぇ」

家康も、忠勝がこの3バカを選ぶわけがないと思っているらしい。余裕そうな表情で家康は頷く。政宗と家康は慶次の案に賛成だ。当の忠勝は、家康の言うことに従うだろう。

問題は、この勝負を行う側の3人であるが。

「某の熱く猛る思いを、是非受け取って頂きますぞ、忠勝殿!」

「いや、俺が忠勝戴くぜ!海の男、なめんなよ」

「全てはザビー様のため!我が知略、思い知るが良い」

三者三様という雰囲気で、既にノリノリで燃え始めていた。これなら話は早い。

こうして、最初で最後となるであろう三つ巴の忠勝争奪告白合戦が、幕を開けることとなった。




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