政宗の予想通り、忠勝を巡って幸村と元親は火花を散らし始めていた。

「忠勝殿は某と共に生きて頂くでござる!」

「いーや、俺と一緒に四国に行くんだ!」

言い合いながら、2人はギリギリと顔の距離を狭めていく。どことなく、子供の喧嘩のようだ。性格的にもお子さまな2人だからそう見えるのも当然か、と政宗は1人勝手に納得する。

しかも、話題の中心である忠勝本人の意思を全く考えていない主張を、互いに言い張っているのだ。その張本人は無表情で微動だにしないため、一体何を考えているのか分からない。しかし、その主は幸村と元親の身勝手な言い分に、かなりキレていた。

「ちょっと待て、おめぇら!わしを無視すんなー!」

家康が両手を上げて怒鳴る。しかし、背丈の小さい家康が間に割って入っても、2人に気付かれることすらなかった。その不憫な様は、思わず政宗も同情してしまうほどである。

その時、しょんぼりと落ち込む家康の肩を、励ますように背後からポンと叩く者がいた。

「全く、勝手なことを言いおって。なぁ、徳川よ」

「そうだそうだー!」

「本多忠勝は我と共にザビー様の元に赴き、我がザビー教の御神体となるのだ!」

「そうだそう……なわけねぇだろおぉぉぉ!」

ついノリで答えそうになった家康はバッと後ろを振り返って、声の主を睨み付けた。

そこに立っていたのは、かつて中国地方を治めていた毛利元就であった。今はアブナイ宗教の幹部をしている、ある意味かなり危険な人物である。

そんな人物の出現に、政宗は一瞬目眩がした。また話がややこしくなる。幸村と元親だけでなく、毛利までもが忠勝を狙っているとは、一波乱どころか十波乱ぐらいあるのではないか。そんな不安が胸をよぎる。

毛利の存在に気付いたのか、元親と幸村が言い争いを止めて振り返った。

「毛利元就、テメェも忠勝狙ってんのか!?」

「ふふふ、ザビー様が本多忠勝を御神体に、と所望しておられる」

警戒感丸出しで噛みつく元親に、毛利は余裕に満ちた表情で答えた。もはや心の底からどっぷりと、ザビー教に浸かってしまっているようだ。

そんな毛利を、家康は気味の悪い物を見るような目付きで眺めていた。幸村、元親に続き、また妙ちくりんな輩が出現したため、さらに険しい表情になっている。

このままでは、仲人としての任務を全うすることが出来いかもしれない。それでは奥州に帰れない。一体どうすれば良いのか。このまま忠勝を巡る三つ巴の争いが激化すれば、ただでは済まないだろう。血気盛んな武将が集まっているのだ。

もし武器を交えた戦いにでもなれば、さらに面倒なことになるだろう。何よりも、政宗としては目の前で真剣勝負が繰り広げられていたら、絶対に参加したくなる。傍観していられる自信はない。そんなことになれば、さらに事態が複雑になる。

政宗は思わず頭を抱えた。

「忠勝殿を御神体にするなどという暴挙、某が阻止してみせまする!」

「そんな理由で、忠勝渡せるはずねぇだろ!」

「ふん、貴様らよりは遥かに理に適った理由ではないか」

話題の中心人物である忠勝と、その主である家康を無視して、3人の争論は加熱していく。忠勝を欲する理由の正当性で言い争っているが、五十歩百歩だとしか思えない。

こうなれば、この状態を放置してこっそり奥州へ帰ってしまおうか。怒りに怒った小十郎は怖いが、自分は主なのだ。主に対して無茶なことはやらないだろう。

そこまで考えて、政宗は思い出した。しばらく前に、勘違いで殺気だった小十郎に詰め寄られたことを。野菜絡みの事件で濡れ衣を着せられ、散々な目にあったのだ。それ以前に、畑に埋められたこともあった。

主に対してであっても、あの男は野菜が関わると無茶をする。このまま帰ったら、どんな目に遭わされるのか。それを考えると、今1人で帰ることなど出来ない。

政宗が元凶である武田の忍に対する悪態を心の中で呟いていると、一際賑やかな声が背後から聞こえてきたのである。




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