乾いた風に吹かれて、砂埃が巻き上がる。広大な荒地の真ん中で、伊達政宗は腕を組んで立っていた。



君はイミテーション



運命の好敵手と長きに渡って戦い続けてきたが、これまで決着をつけることは出来なかった。今日こそは雌雄を決する、と何度目か分からない戦いを前に、政宗は逸る鼓動を抑えられないでいる。

相手はまだ来ない。待つのは好きではないが、今この時間だけは特別だ。待った分だけ楽しみが大きくなっていく気がする。

不意に、背後に人の気配がした。腹心の片倉小十郎は、政宗から見える位置に立っている。従って、彼ではない。おそらく、待ち人であろう。

「待たせたな」

低く澄んだ声が後ろから聞こえた。ようやく待ち侘びた瞬間が訪れたのだ。これから始まるであろう至福の時間を思うと、自然と笑みが零れる。

口の端を上げながら、政宗はゆっくりと後ろを振り返った。

「遅かったじゃねぇかぁ…………って誰だテメェはあぁぁぁ!?」

思わず大声を上げてしまったた。目の前にいたのは、運命の好敵手――真田幸村ではなかったのだから。

服装は幸村そのものである。しかし、髪の長さと顔付きが全く違っている。肩までの髪を無理矢理に結っているので、かなり違和感がある。

しかし、どこかで見た覚えのある顔だ。それがどこかはすぐに思い出すことは出来ないが、かつて会ったことがあるのは間違いない。

「誰だとは失礼な。我……いや、某は正真正銘、真田幸村でござる」

目の前の幸村の格好をした男は、淡々とした口調で名乗る。普段からの暑苦しさは欠片も見受けられない。覇気と元気を根こそぎごっそり吸い取られたような感じだ。

男は滑らかな動きをしながら、手にした獲物で政宗を指した。そこで政宗は気付いた。男の手にしている武器が、幸村のものとは全く違うことに。

両手に持つ2本のものという点では同じだが、男の武器は幸村の槍とは異なり、大きく弧を描いた刀である。ここでようやく、政宗は男の正体が分かった。

「tension低すぎだろ!明らかに別人だろ!ていうか、お前中国の毛利だろ!」

畳み掛けるように言うと、幸村の姿をした男――毛利元就は、呆れたような表情で首を横に振った。

「何を血迷ったことを言っておるでござるか。某は中国の毛利元就ではござらぬ。ザビーきょっ……」

「Ah、ザビー教?」

「ゴホゴホッ、真田幸村本人でござるよ」

つい勢いで自ら正体を暴露しかけたが、毛利は慌てて咳き込んで誤魔化す。どう足掻いても毛利なのは明白だが、往生際の悪い男である。

しかし、何故ここにこの男がいるのか。本物の幸村はどうしたのか。その幸村の着ているものと寸分違わぬ服は、どこで手に入れたのか。そして、小十郎がこの異変に気付かず、遠くから眺めているだけなのはどういうことか。

次から次へと疑問が浮かんでくるが、今はとにかく事情を聞くのが先決だ。

「おい、真田の忍!そこにいるんだろ!?こいつはどういうこった!」

政宗は大声を張り上げた。真田の忍こと猿飛佐助は2人の対決の際、必ずどこかに身を潜めて様子を窺っている。少し離れたところに気配を感じたので、今日も来ていると思った政宗は、比較的常識の通じる佐助に事の次第を聞こうと思ったのだ。

政宗の呼び掛けに応じて、迷彩柄の相変わらず派手な忍が降ってきた。いや、ドサッという重々しい音と共に落ちてきた、といった方が正しい。

「なに言っとるとねー。そこの御仁は本物の幸村どんよ」

「テメェもかああぁぁぁ!?九州の島津だろテメェ!格好だけじゃなくて口調も真似る努力しろよ!」

目の前に現れた迷彩柄の鈍重そうな忍は、佐助ではなく島津義弘であった。何気に忍装束が似合っていることに、政宗は驚きを隠せなかった。

しかし、真田だけでなく佐助にも化けているとは、かなり用意周到な連中である。一体何が目的なのか。毛利の言いかけたザビー教という言葉から考えると、聞くまでもない。

偽主従2人を一瞥した政宗は、渋い顔をしながら彼らに尋ねた。

「おい、毛利さんに島津さんよ。本物の真田幸村はどこだ?」

「何を戯けたことを。我が本物の真田幸村であることを証明してやるでござる」

「なんでもござるつけりゃ良いってもんじゃねぇだろ!」

どこからどう見ても違和感だらけなのに、毛利はまだ自分が幸村だと言い張る。しかも、口調を無理矢理真似しているので、所々怪しい部分がある。

しかし、一体どのような方法で、本物だと証明するつもりなのか。少しだけ興味があると言えばある。政宗が好奇と呆れの入り混じった視線を向ける中、毛利は両手に持った輪刀を天に掲げて高らかに叫んだ。

「ご光臨くださいませ、お館さま!」

「ワタシの出番デスネー!」

毛利の声に応じて遠くから現れたのは、武田信玄のように赤い衣装を身に纏ったザビー教教主であった。その姿を見て、政宗は思わずズッコケそうになってしまった。

似合わないにも程がある。引き締まった筋肉を持つ信玄とは対称的なザビーがあのぴったりとした服を着ているのだから、その不恰好さは言い様もない。

「オーゥ、ユッキーにサスッキー、ご苦労様デース!」

「誰だよ、そいつら!そんな呼び方聞いたことねぇよ!」

巨体を揺らせながら、武田信玄の格好をしたザビーが近付いてきた。どことなくおかしい労いの言葉を述べながら。

この変態集団に関わっている暇などない。政宗の目的は幸村と決着をつけるための戦いをすること。そのために忙しい時間を割いて、ここまで来たのだ。

「あのな、アンタらと遊んでる時間はねぇ。本物の真田幸村はどうしたんだ?」

「我が本物の真田幸村だと言っておるではないか」

「そうそう、コレが本物のユッキーよ、ドクガンリュー!」

「幸村どんが勝ったら、大人しくザビーさ……信玄どんに帰依するとよ!」

口々に勝手なことを言う3人に、政宗は大きく溜め息を吐いた。予想していた通り、島津の言ったことが目的なのだろう。

全く冗談ではない。ただでさえ運命の一戦という雰囲気を台無しにされて気分が悪いのに、さらにザビー教などという胡散臭い宗教に勧誘されては腹も立ってくる。

このまま勢いで3人を相手に戦うか。それで気分を晴らすのも悪くない、と政宗は考えていた。しかし、小十郎がこちらを向きもしないのが気になる。何をしているのだろうか。


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