ザビー様は仰ったのだ。今の若者が日本の文化を深く学ぶ機会を作るために、かつて廃部となった茶道部を復活させると。そして御自ら顧問にお就きになられると。

また、ザビー様は命じられたのだ。我が茶道部の部長となって、しんじゃ……もとい部員を集めるようにと。多くの部員を集め、茶道部を隆盛させよと。



ひょんなことから黎明編



「従って、長曾我部よ!これから部員の勧誘に参るぞ」

「勝手にオレまで部員にすんなよ!いやそれより何でザビーに様付けしてんだ、お前?」

長曾我部元親の幼馴染みである毛利元就は少々変わっている。このBSR学園高等部の中では優等生の部類に入るのだが優れているのは勉強や成績に関する面のみで、実に可笑しな行動を取るため変人と評判であった。

また元々人とあまり関わらないタイプであり、加えてその物言いが高飛車なこともあったために彼に近寄る生徒はほとんどいなかった。元親は幼馴染みということで例外的に親しくしていた。親しいと言っても、元就が一方的に元親を巻き込んでいるだけなのだが。

今回の件は、何故か元就が宗教学を教えている教師ザビーに傾倒してしまった事が発端となっていた。口を開けば「愛に目覚めた」だの、よく分からないことを言い始める。更には「サンデー毛利」などというネーミングセンスを疑ってしまうような洗礼名を貰って喜んでいた。

気持ち悪いほどにザビーに心酔している元就は、命じられた任務を直ちに遂行すべく新茶道部の立ち上げを行おうとしていた。自分の名前が書かれ、更にご丁寧に印まで捺されていた入部届を元親は先ほど突然見せられたのだ。

「四の五の言うでない。さっさとしんじゃ……部員の勧誘に向かうぞ」

「だからちょっと待てって!大体茶道部ったって、お前茶道とか分かんのかよ?あと部室とかあんのか?」

小中高とずっと一緒にいたが、元就が茶道に通じているなどという話はついぞ聞いたことがない。それに随分昔に廃部になったらしい茶道部が今さら活動出来る場所はあるのだろうか。元親の疑問の声に元就は自信に満ち溢れた表情で、無論よ、と答えた。

どういうことか詳しく尋ねようと元親が席を立とうとした時、元就がその制服の襟をいきなりガシッと掴んだのだ。そしてそのままズルズルと引っ張られる形で元親は教室を出る羽目になった。クラスメイトの好奇の目に晒されながら。



元就が向かったのは今はあまり使われていない旧棟。うっすらと「茶道部」と戸に書かれている教室の前に2人は立った。元就がガラリと戸を開く。廃部になってから全く使われていないらしいその教室は埃とカビ臭さで悲惨な状態となっていた。

「うっわ、こんなトコで茶なんて飲めねぇだろ」

「ふん、貴様一人で隅々まで掃除すれば済むことよ」

「イジメ、かっこ悪い」

元就は手で口と鼻を押さえながらガタガタと窓を開けている。部屋の中央には昔使われていたらしい畳がいくつか散乱していた。水拭きでもしなければ使えそうにないほど汚れている。

ただ教室全体が使えないわけではない。元就が言うように掃除をすればここで活動は出来るだろう。

「部室はここにする。ザビー様にも許可を戴いてあるからな。だからキリキリ掃除をするが良い、長曾我部」

「根回しの早いこって。りょーかい」

ここで逆らっても元就には勝てない。口で勝てたことは一度もないのだ。だから元親は大人しく掃除を始めた。ロッカーから箒を取り出して床を掃く。埃だけ取って後から水拭きをすればある程度は綺麗になる筈だ。図体に似合わず手際が良いな、と毛利が茶化す。彼は比較的汚れていない椅子に座って眺めているだけだった。手伝う気は更々ないらしい。

元親は教室の隅に置かれた机の下に何かがあるのを見つけた。茶釜だ。埃と蜘蛛の巣にまみれたその茶釜はよく見ると年代物のようである。まだ茶道部があった頃に使われていたものなのだろう。

ついでにコイツの埃も払っておこう、と元親が箒でそれに触れた瞬間。

「そのような物で触れないでくれ給え」

目の前に青白い男が現れた。どうやらうっすらと透けているらしい。直感的にそれが生身の人間ではないことを理解した元親は硬直してしまった。

「も、も、も」

「どうした。茶釜にでもはまったのか」

元親の様子がおかしいのに気付いて、元就が近くまでやってきた。元就にはこのユーレイが見えていないようだ。

「どうやら私の姿は卿にしか見えぬらしい。私は松永久秀。この『平蜘蛛茶釜』の持ち主だ」

黄色い服を着たその男は胡散臭いほど丁寧に自己紹介をした。彼は聞いてもいないのに、その身の上を説明し始めた。昔、敵にこの茶釜を渡すように迫られ、これを渡すぐらいならと茶釜を壊して死を選んだ。ただの自殺ではなく爆死という壮絶な死に方をした彼は死後も現世に留まったのだそうだ。そして壊したこの茶釜を復活させて、持ち主を不幸にしながら転々としていたのだという。

要するに、この茶釜は呪われているらしい。これのせいで昔の茶道部が潰れたのではないか、などと恐ろしいことを考えていた元親に元就が尋ねた。一体どうしたのだ、と。

「も、元就……これの持ち主の松永さんっていうユーレイがここにいるんだけどよ」

「そうか。それは好都合だな。その松永さんとやらに茶の湯を教えてもらえば良い」

ユーレイと聞いて驚きおののくかと思っていたが、予想に反して元就はすんなりと受け入れてしまった。それどころか、そのユーレイを利用しようとまでしている。これも「他人は捨て駒」という彼の信念に基づいてのことに違いない。

「もしくは何処ぞの碁漫画のように、そなたの体に乗り移ってもらえば良い。全国大会も優勝間違いなしであろう」

あの碁漫画読んだことあるのかよ、とか、茶道部に全国大会なんてあるのかよ、とか突っ込みたいことは沢山あったけれども、これ以上疲れるのは嫌なのでやめておいた。

「これで茶道部らしい活動が出来るな。宜しく頼むぞ、松永さん」

松永のいる場所とは全く違う方向に向かって、元就は挨拶をしていた。松永はニヤニヤと笑っている。

これから何がどうなるのか。全く予想のつかない茶道部の活動が始まることとなった。



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