「まずは部員を揃えねばな」
生徒手帳を開きながら毛利が呟いた。この生徒手帳に記載されている部活動に関する規定には、公式の部活動とするには所属部員が5名以上いなければならないと書かれていた。顧問については問題はないが、部員を集めなくては正式な部活動として申請すら出来ない。最優先すべきは部員の確保である。
そんな元就の説明を元親はぐったりと机に突っ伏して聞いていた。彼の全身全霊を込めた掃除のお陰で部室は見違えるほど綺麗になった。これで部室は使えるだろう。
「松永さんはまだいるのか?」
「うんにゃ、どっか行ったみてーだ」
元親が必死に掃除をしていた間に松永はどこかに消えてしまっていた。その内戻ってくるだろうなんて思ってはいるが、よくよく考えてみたら別に戻ってこなくても困ることはない。
そうか、と元就は答えた。松永を部員に含めることは出来ないので、然程興味はないようだ。生徒手帳を胸元のポケットに仕舞い込みながら、元就は立ち上がった。
「では、早速勧誘に参るぞ」
「あんなぁ、もう他の奴ら帰っちまってるだろ。こんな時間だしよォ」
こんな時間――元親の言う通り既に夕刻を過ぎて夜になろうとしている時間だ。このような時間まで残っているのは教師か部活に入っている生徒ぐらいである。
「……ならば、本格的な勧誘は明日から始める」
元親の言葉も一理あると判断した元就は苦々しい顔で言う。
納得してくれて良かった。元親はほっと胸を撫で下ろした。先ほどの掃除でかなり疲労していたのに、これから更に勧誘で連れ回されるなど堪ったものではない。
だが、その後に衝撃的な言葉が続いたのである。
「しん……部員募集の旨を書いたチラシを作ってくるのだぞ、長曾我部。明日の昼に学校中に掲示して回る」
「おいぃぃ!なぁんでオレがんなモン作んなきゃなんねぇんだよ!?」
「見た目の割に繊細な作業が得意ではないか。それとも昔の写真を学校中にばらまかれたいか?」
「勘弁してください」
元就の容赦ない脅し文句に、元親は机に両手をつきながら頭を下げた。
元就は幼馴染みである元親の弱味を握っている。今に比べて随分とおとなしかった元親の幼少時代。ただおとなしかっただけでなく、あまり人に言えないような趣味を持っていた。いや、その当時はソレが普通だと思って過ごしていたのだから仕方ない。成長してからソレが恥ずかしいものだと感じるようになったのだ。
その頃の写真は全部廃棄した筈だった。しかし、元就は密かに取っておいたらしい。その写真を今でも脅しの種にされている。ただ脅すと言っても、元就なら実行しないと元親は信じていた。ばらまくことはないと思ってはいるが、こういう場合は言うことを聞いておいた方が良い。面倒ではあるが、全く出来ない無理難題を出しているわけではないのだ。それに元就の言う通り、絵を描いたりビラを作ったりという細かい作業は昔から得意だったりする。
「しょうがねぇから作ってやるけど、面倒だから構図は好きなようにさせてもらうぜ?」
「構わん。だが、なるべく分かり易いものが良い。ザビー様の似顔絵などあれば尚良いのだが」
「それじゃ誰も入りたがんねぇよ」
元親の突っ込みに腹を立てた元就は、幼馴染みに向かって鞄を投げつけた。
明日からの勧誘活動に向けて準備をするために、元就と元親は部室を後にした。ほとんど人のいない廊下を、2人は作戦会議という名の雑談をしながら歩いていったのである。
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