その出で立ちを一言で表すのならば、変というのが相応しい。平安時代にいる貴族のような帽子を被り、奇妙な衣装を纏い、挙げ句に顔面を真っ白に塗りたくっている男。見るからに変人である。

そんな男が店の奥から出てくれば、驚くのも当然だ。

「おじゃ!そなたは北条の……」

小太郎を見て、男は素っ頓狂な声を上げた。どうやら2人は知り合いらしい。知り合いでもなければ、こんな店を紹介するはずはないと思って、元親は一人納得する。

白塗りの男に、小太郎はぺこりとお辞儀をしてから、身振り手振りで何かを伝え始めた。いつでもどこでも、小太郎は礼儀正しい。だが、ジェスチャーだけで言いたいことが伝わるのか、元親には疑問だった。

小太郎は言葉を話せないわけではない、と彼と昔馴染みの佐助から聞いたことがあるのだが、それならば何故話さないのだろう。信念とか誓いといった類の理由なのかもしれない。

元親が色々考えているうちに、小太郎の説明は終わったらしい。

「ほっほ、まろのコレクションが欲しいと申すでおじゃるか」

男は小太郎のジェスチャーで全てを理解したようだ。周囲でそれが分かるのは、佐助とかすがだけなので、ただただ驚くしかない。いや、松永さんという最近出没するようになった幽霊も理解していたが、アレは人間でないので数に入れて良いものか怪しいものである。

良いぞよー、と男は上機嫌で言いながら、店の中を案内し始めた。しかし、トンチキな服装、そして一人称が麿という時点で、関わっていけない人物だと元親の第六感が告げている。こういう変人に関わると、大抵碌な目に合わない。

元親は元就の方に視線を向けた。自分がこれだけ男を不審がっているので、元就もそうかと思ったのだが、全くそんな素振りはなかった。よく考えてみれば、あの胡散臭さの塊であるザビーに心酔している人間なのだ。これぐらいの変人に動揺するはずがない。

部長から詳しい話をして欲しい、というように小太郎は元就の背中を押して、男の前に立たせた。聡い元就は小太郎の意図を素早く汲み取ったようで、男に対して事情を説明し始めた。

元就が敬愛して止まないザビーのこと、茶道部を立ち上げたこと、そして茶の湯勝負のこと。ザビーに関するくだりを熱心に詳しく説明する姿には、元親も苦笑するしかなかった。

「――ゆえに、我らは茶道具を探しておる」

「良いでおじゃる!まろの麗しいコレクションをじぃっくり見てたもれ〜」

元就の言葉に、男は上機嫌という様子で答えた。おそらく、自分の自慢のコレクションを見てもらえるのが嬉しいのだろう。

3人は男に案内され、茶道具の並んでいる棚へと向かった。奇抜な姿の割に、男はひょいひょいと軽やかな動きで移動する。まるで小動物のようだ。

この男と小太郎はどういう繋がりで知り合いなのか、と元親は歩きながら考えていた。近所に住んでいるのか、家族ぐるみの付き合いでもしているのか、もしかしたら大穴で親戚という線もあるかもしれない。そこで元親は1つ気付いた。小太郎のことを、ほとんど何も知らないことに。

元就のことは隣同士に住む幼なじみということで、よく――というより嫌というほど分かっている。しかし、小太郎のことは学校での姿しか知らないのだ。同じ部活のメンバーとなったのに、私生活のことを話したことはなかった。どういう家族構成で、どういう趣味をしているかなどということも話したことがない。

茶道部に入るまであまり接する機会はなかったが、折角同じ部に所属することになったのだから、これから交遊を深めていけば良いのだ。茶道部における数少ない常識人同士、仲良く出来るだろう。

隣を歩く小太郎に、長曾我部は二カッと笑いかけた。突然のことに、小太郎は少々驚いたようだ。しかし、はにかむような笑顔で返してくれたので、元親は嬉しくなった。小太郎だけでなく、どうせなら明智や市とも仲良くやっていきたいものだ、と元親は思った。

目的の棚の前に着き、整然と並べられた茶道具を見て、元就は目を見開いた。そんな幼なじみの態度が気になった元親は、茶道具を見て同様に驚いたのである。

「高っ!」

普通の高校生には手の届かない――どころか雲の上にも近い値段を見て、元親は目を剥いた。0の数が想像していたより、2、3個多かった。元就は口を開いたまま、絶句している。小太郎も少し困ったように、元就と元親に視線を向けていた。

「こりゃ買えねぇだろ、普通によォ」

「しかし、これほどの品ならば我がザビー流茶道部に相応しい」

「ザビー流茶道部って何だよ」

勝手な流派まで作るほど、ザビーに傾倒している幼なじみに、ただただ呆れるしかない。しかし、やはり値段が問題であった。普通の家庭で暮らしている元親も、尊大で高慢な性格をしている割に一般的な庶民である元就も、高級な古道具を買う金など持っていない。

元就がよく「歩く身代金」と喩えている、旧家の跡取り息子で金持ちな政宗ぐらいなら買えるかもしれないが、如何せん一般人には無理な値段である。そもそも、正式な部として認められていないので、学校から支給される部費というものもない。どうやっても買うことなど出来ないだろう。

腕を組んでしばらく考え込んでいた元就が、小太郎の傍に近付いていった。

「あの男と値下げ交渉は出来ぬか?」

元就は小太郎に耳打ちする。初対面の元就より、多少なりとも顔馴染みである小太郎が言い出す方が、交渉の成功率は上がる。しかし値下げしたとしても、手が届く値段になるかは分からないのが問題だ。

小太郎は困ったように頬を掻いた。そして、仕方がないというように、男に対して再びジェスチャーで価格交渉を始めた。

「高いと申すでおじゃるか。しかし、このまろが集めた物ゆえ、これは適正価格ぞよ〜」

どういう理屈で適正価格なのか、さっぱり分からない。だが、そう言い切られてしまってはどうしようもなかった。下手に突っ込んで機嫌を損ねるのは下策である。

自身が下手なことを言えば、目の前にあるこの素晴らしい茶道具は手に入れることが出来なくなる。そう考えた元就は、しばらく黙ったまま思案を巡らせていた。

――その時。

「そこをなんとかしてくれねぇか?頼む!」

元親が両手を前で合わせて頼み込み始めたのだ。こういうことをするのは、元就よりも自分の方が向いていると元親は思っている。

元親の必死の頼みに、男はにんまりと笑った。そして、とても楽しそうな笑みを浮かべたまま、口を開いた。

「ならば、まろと碁を一局打つでおじゃ!」

予想だにしていなかった切り返しに、元就たち3人は驚いて目を丸くしたのであった。



―続―


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