「というわけで、茶道具の購入に参るぞ」

「何が、というわけなのか全然分かんねーけど、もう好きにしてくれや」

翌日の放課後。元就に襟首を掴まれ、引きずられるように元親は廊下を歩いていた。元就は一見非力だが、茶道部もといザビーに関わることとなると本来以上の力を発揮するようだ。そんなことを考えながら、元親はズルズルと引っ張られていたのである。

ザビーから下賜された茶道具は、先日大破してしまった。これでは生徒会との対決に向けた練習をすることが出来ない。仕方がないので、今度買いに行こうという話になっていたのだが、翌日すぐとは考えていなかった。相変わらず元就は自分勝手な性格をしていると思う。しかし、長年の付き合いのせいか、元親も普通に受け入れてしまっているのだ。

余談だが、ザビーからもらった大事な物を壊した犯人として、元親はしばらく元就にいびられることとなった。勝負の景品にされるは、全く酷い扱いである。

ここまで虐げられても友人でいられるのは不思議だ、と周囲の人間によく言われるのだが、元親としてはあまり不思議に思うことはない。元就はそこまで嫌な奴ではないと知っているし、正反対の性格をしているからこそ波長が合うのだと考えている。磁石の対極同士が引き合うというのに似ている気もする。

しかし、茶道具を買いに行くといっても当てはあるのだろうか。この周辺で茶道具を売っている店など聞いたことがない。いや、元親は茶道に興味がないので、単に知らないだけなのかもしれない。

さらに問題なのは、茶道具がいくらするのかということである。高校生の自分たちには手の出せない値段だったら、どうするのだろうか。まだ公認されていないので学校から部費など出ないし、部員から徴収した部費だけでは足りない気がする。高くて買えないとなった時、元就が暴挙に出てしまうかもしれない。

そんなことを考えながら引きずられていると、後ろから見たことのある生徒が追い駆けて来ていた。

「おぅ、どうした風魔?」

同じ茶道部部員の小太郎が後を急いで追ってきていたのだ。元就も小太郎に気付いたようで、掴んでいた元親の襟首から手を離して振り向いた。

走ってきていたのに、小太郎は息一つ乱していない。入学当初、抜群の運動神経を誇る彼が、運動部からの勧誘で引っ張りダコだったのを元親は思い出した。それが何の因果か、こんな運動部とはかけ離れた部活に入ってしまったのだ。宝の持ち腐れという他ないだろう。本人はノンビリしたもので、そんなことを考えてなどいないようだが。

元就たちに追い付いた小太郎は、懐から一枚の名刺を差し出した。元就はそれを受け取り、まじまじと眺めた。元親も気になって覗き込む。

「古道具屋、今川?」

その名刺に書かれていた店名を、元親は口に出して読んだ。和紙に書かれた流麗な字体から、古めかしい雰囲気が伝わってくる。その名の通り、骨董品などを扱っている店なのだろう。そんな名刺を差し出した小太郎の真意を、聡い元就は既に理解していた。

「ここに良い茶道具でも売っているということか?」

元就の問いに、小太郎はこくこくと頷く。この店を紹介するために、先ほど追いかけてきたのだろう。

どういう関係でこの店を知っているのかは分からないか、ほぼ無理矢理入部させられた部なのに、ここまで考えてくれる小太郎の男気に、元親は感動していた。

元就はしばらく考え込んでから、小太郎に向かって口を開いた。

「ならば、まずはここに参るとしよう。そなたも来るが良い」

紹介者である小太郎が一緒に行った方が、何かと都合が良い。店の者と知り合いであるなら値段交渉などもしやすいだろう、などという打算的な考えも元就にはあった。

元就の誘いに、言われずともという表情で小太郎は頷く。ザビーという少々イカれた顧問から始まり、一風変わった部長や部員の集まる中で、このようにマトモな人物もいたことに元親は驚きを隠せなかった。自らもマトモな部類だと思っている元親は、小太郎に言いようもない親近感と安心感を覚え、満面の笑みを浮かべて握手を求め始めた。

そんな元親の行動を見て、よく分からないというように小太郎は小首を傾げたのであった。


* * * * *


古めかしい佇まいをした建物に、木製の立派な看板。その看板にヒョロヒョロと書かれた、どことなく味のある文字。見るからに骨董品などを扱っていそうな店である。

小太郎の案内に導かれ、元就と元親は目的地である『古道具屋 今川』まで辿り着いたのだ。学校を出てから30分ほど歩いた場所にその店はあった。そんなに長時間歩いたわけではないのに、元親は底知れない疲労を感じていた。道中、元就がひたすらザビーの素晴らしさを語り続けていたせいに違いない。小太郎も少し疲れたような表情をしているようだ。

この歴史を感じさせる建物の前に学生服姿で立つ元就たちは、かなり場違いな雰囲気を醸し出していることだろう。そんなことなど気にする様子もなく、小太郎は店の戸を開いた。

「お邪魔しまーす」

小太郎に次いで、元親が元気良く挨拶をして入った。最後に元就が続く。店内は独特の空気と匂いに支配されていた。

店の様子を一言で表すならば、悪趣味という言葉が相応しい。古今東西、和洋中と節操なく集められ、乱雑に並べられた物は骨董品というよりも、ガラクタと言った方が正しい気がする。

しかし、そんな悪趣味なガラクタが陳列されている棚を見て、元親は密かに心を踊らせていた。手先が器用で工作が得意たったので、昔からガラクタを拾ってきてはちょっとした物を作っていたのである。動かなくなったラジコンやラジオ、プラモデルなどを組み合わせて中型ロボットのような物を作ったこともあった。元就には役に立たないガラクタの集合体だと酷いことを言われた覚えがある。確かに見た目はガタガタだったし、バランスも何もあったものではなかったが、本人はかなり満足していた。

このような趣味の持ち主である元親が、ガラクタ――もとい骨董品を見て興奮しないわけがない。棚に並べられているどこかの国の土産物らしき人形や、何十年も前に動かなくなったような壁掛け時計につい目を奪われてしまう。そんな元親を見て、元就が意地悪い笑みを浮かべて声を掛けてきた。

「相変わらず、変な物が好きなのだな」

「ザビー先生に心酔してるお前に言われたくねー」

自分の好きなものを馬鹿にされるのは、流石の元親も許すことができなかった。この一言で戦いのゴングが鳴らされることとなり、静かな店にギャーギャーと言い争う元就と元親の声が響き始めたのである。

それに慌てたのは小太郎であった。懸命に2人の仲裁に入るが、目の前の相手しか見えていない状態の2人には無意味な行為でしかなかったのである。元親と元就の互いを罵る声が一際大きくなり、怒りが最高潮を迎えたその時、店の奥から不愉快そうな声が聞こえてきた。

「うるさいでおじゃー!」

それと同時に、奥から奇抜な格好をした男がのっそりと出てきたことにより、元親と元就の不毛な舌戦は終止符を打ったのであった。


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