「――と、いうわけだ」

「ひっでーよ、元就いぃぃぃ!」

元就が生徒会での出来事を語り終えた後、元親が勢いよく叫んだ。

本人の与り知らぬところで勝負の景品扱いされていたのだから、元親が抗議するのも当然と言えば当然である。

そんな元親の抗議に、元就は呆れたような表情をした。

「何を取り乱しておる、馬鹿者。要は勝てば良いのだ」

勝てば良いとは言っても、茶道など全く心得ない素人ばかりの集団に何が出来るのだろうか。

相手側も素人とはいえ、こちらよりもマトモな人間はいるので、勝敗は目に見えていると元親は感じていた。

負ければ生徒会に入れさせられる。別に生徒会の連中が嫌いというわけではないが、面倒な役職などに就かされるのは御免である。

それに今まで茶道部のためになんだかんだとやってきて、愛着のようなものも感じていたりするのだ。だから、今さらお前は要らないと言われたようで、少し腹が立つ。

元親は苛ついた声で、元就に訊ねた。

「勝つ自信はあんのかよ?」

「愚問だな。この我がいるのだから、もちろん我々が勝利する決まっておる」

聞くんじゃなかった、と元親は後悔した。どこからそんな自信が湧いてくるのか、理解出来ない。

相変わらずこの幼馴染みは大胆不敵で、恐いものを知らないようだ。ハァと小さく溜め息を吐いた元親に、元就は意地の悪い視線を向けた。

「ふっ、それにこちらには茶道のスペシャリストによる指導を受けられるのだ。勝てぬはずがなかろう」

チラリと濃姫の方を見て、元就は自信に満ちた声音で言う。元就の言葉に、濃姫はにっこりと笑みを浮かべた。

「また、いざとなれば松永さんもいるのだからな」

「頼りにされるというのも悪くはないが、少しばかり他力本願ではないかね」

「うどぅわっ!?」

いつからいたのか、元親の隣に松永が立っていた。松永の姿も見えず言葉も聞こえない元就は、突然悲鳴を上げた元親を不審そうに見た。

市が無言で元親の方ををジッと見つめている。いや、松永を見つめていると言った方が正しいだろう。明智も気配だけは感じているのか、興味深そうな顔で松永の方を見ていた。

そんな明智を、濃姫はウンザリしたような表情で見ていた。こんな人物が親戚にいて、苦労が絶えないに違いない。

小太郎は無言のまま、ボンヤリと座っている。何を考えているのか、その表情から読み取ることは出来ない。

「なぁ元就、噂の松永さんがここにいるぜ」

「そうか、ならば宜しく頼むぞ、松永さん」

全く見当違いの方向に向かって、元就は手を差し出した。幽霊なのだから握手などできるはずはないのだが。

元就は妙なところで律儀というか、礼儀正しい。その礼儀正しさをたまには自分に向けてもらいたい、などと元親は思ってしまう。

「何はともあれ、この2週間、死ぬ気で特訓するしかあるまい」

「そういうことなら、少し厳しいスパルタコースでやるしかないわね」

濃姫は笑みを浮かべながら、懐から二丁の拳銃を取り出した。それを見た元親はギョッと驚いた。

「ちょっ、お濃先生!そりゃ本物か!?」

「やだ、本物じゃないわよ。中身はただのタバスコよ」

濃姫が取り出した拳銃は、どうやら水鉄砲らしい。しかし、中身が結構危険な気もする。

周りだけでなく、彼女自身もかなりの変わり者ではないか。元親はそう思ったものの、タバスコ鉄砲の報復を受けかねないので口には出さなかった。

「流石、帰ちょ……」

「その名前で呼んだら怒るわよ」

開かれた明智の口に向かって、濃姫は水鉄砲を撃つ。その間髪入れない行動は、容赦というものが感じられない。

タバスコを直に口内へと受けた明智は、あぁ辛い辛い、と嬉しそうにのたうち回った。やっぱり変態か、という目付きで元親は明智を見つめていた。

濃姫の言うスパルタコースが一体どの程度まで厳しいのかは分からないが、とにかく茶道の基本はマスターしなくてはならない。

そんなことを元就が考えていると、小太郎がスッと手を上げた。

「………………」

「その前にまず茶の湯で必要なものをきちんと集めるべきだ、と言っているようだ」

小太郎の無言の訴えを、松永が通訳する。何故この男に小太郎の言いたいことが分かるのだろうか。元親は怪訝に思いながらも、松永を介した小太郎の言葉を口にした。

「まずはちゃんとした道具集めるべきだってよ」

元親の更なる通訳に、小太郎はハッと驚いた顔をする。そしてすぐ首を縦に振り始めた。一瞬、自分の言いたいことを元親が理解してくれたことに戸惑ったのだろう。

小太郎、松永、元親の伝言リレーを聞いた元就は、やや不満そうに口を開いた。

「道具ならば、ザビー様が与え給うた物があるではないか」

「アレならすぐ壊れちまっただろ」

元親の言う通り、ザビーから渡された茶道具はすぐに壊れてしまったのだ。見た目にもボロボロだった上、手に持って振り回したら先から折れたり、持ち手が取れるなど脆すぎる代物であった。

しかも、運悪く元親が壊してしまい、その後しばらく元就から酷い扱いを受けることになったのである。そんな欠陥品を、ザビーから下賜されたものとして丁重に扱っていた元就の怒りは凄まじかった。

あの時のことを思い出して元親が青い顔をしていると、元就はニヤリと意地悪い笑みを浮かべた。

「壊れたとて、このように直して使えば良かろう」

どこからともなく元就が取り出したのは、柄杓や茶筅などの茶道具。よく見ると折れた部分などが丁寧に補修してある。これを使うつもりらしい。

どれだけザビー先生に心酔してんだよ、と元親は呆れながらその茶道具を受け取って確認しようとする。

「ちゃんと使えんのか?まぁたすぐにポキッて…………ポキッて……いきやがったじゃねーかあぁぁぁ!」

元親が手に取った瞬間、柄杓の柄が折れた。驚きのあまり、元就は手に持っていた茶筅を落とした。

そして、折れた柄杓を手に元親が立ち上がると、足元に落ちていた茶筅をベキリと踏み潰してしまった。

その場の空気が凍り付いた。元就の表情は変わらない。しかし変わらないからこそ、その怒りが深いと分かる。

壊れやすいにも程があんだろーが、と元親は心の中で呟く。しかし、何を言っても後の祭り。元就がユラリと立ち上がった。

「あでででで!ヤメロって元就!わざとじゃねぇんだって!」

「全部壊れてしまうのは市のせい……」

正座をしたまま、市は暗い声で呟く。その隣では、明智が左右に揺れながら高笑いをしている。

元親は折れた柄杓でベシベシと元就に殴られていた。それを止めようと、小太郎は中腰であわあわと狼狽えている。

その様子を濃姫は楽しそうに眺め、また彼女とは違った意味で愉しそうに松永も見ている。

こんな調子で生徒会と勝負出来るのか。元就にタコ殴りにされながら、元親は考えていたのだった。


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