元就の作戦は、半兵衛の一言によって瓦解した。

学園七不思議に話が逸れかけていたのに、生徒会のブレーンの登場によって、話を元に戻されてしまったのだ。

仕方がない、と元就は胸中で溜め息を吐いた。取り敢えず、生徒会の連中の条件を聞くだけ聞いて、その後対処の仕方を考えるしかない。

しかし、生徒会側が追加する条件というのは、一体どのようなものなのだろうか。

「Ah、話がズレちまったが、もう一つウチから条件を付け足すって言ってたろ?」

「言っておったな」

「その内容ってのがな、オレたちが勝ったら元親を生徒会に入れるってなコトなんだ」

政宗の言葉に、元就の顔が強張った。

そりゃ当然か、と政宗は思う。元親を寄越せなんていう条件が出されるとは、元就は思いもしていなかっただろう。

「そなたの言う元親というのは、我の幼馴染みで究極馬鹿で果てしなき阿呆な長曾我部のことか?」

「そいつ以外にどんな元親がいるってんだ?てか、何気に酷い言い様だな」

ボソボソと普段以上に暗い声音で元就は言う。かなり動揺しているらしい。

挙動不審な元就を見て、政宗はにやにやとした笑みを浮かべながら再び訊ねた。

「どうだい、毛利さんよ」

「構わぬ」

今度は政宗が驚く番であった。いや、政宗だけではない。夢路を旅している幸村以外の生徒会役員は、元就の短い一言に驚きを隠せずにいた。

してやったり、と元就はこの時心中でほくそ笑んでいた。大方、元親を条件に出せば焦るなどと思っていたのだろうが、読みが甘いと言わざるを得ない。

元就の思わぬ返答に、政宗は若干狼狽しながら再確認する。

「いっ、いいのかよ?」

「構わぬ。あの阿呆ならば熨斗をつけてくれてやるわ」

元親が半兵衛から生徒会役員にならないかと誘われた時、元就は密かに策を弄してそれを阻止した。

それは半兵衛が見当をつけていた通り、玩具を取られるのが嫌だというのもあったが、何よりも元親が誘われて元就が誘われなかったということに起因する。

頭脳明晰な自分ではなく、ぱっぱらぱーな元親が生徒会の役員に選ばれた。その事実を、自尊心の高い元就は許せなかった。

だから、元親が生徒会に行くのを全力で阻止した。しかし、現在における元就の全ての原動力はザビーである。

ザビーの望む茶道部を公式の部活動として認めさせて、将来優秀な信者となるであろう部員たちを大量に確保することこそ元就の目的なのだ。

任務遂行のためには、多少の犠牲はいとわねばならない。そして、その犠牲が元親ならば、何も言うことなく差し出すだろう。

さらに、転んでは只で起きないという精神に基づいて、元就は自分からも条件を出すことにした。

「その代わり、交換条件を出させてもらうぞ」

「交換条件?君たちが勝ったら茶道部は認める。僕たちが勝てば元親くんは生徒会に入ってもらう。対等な条件だろう?」

「何が対等なものか。そなたらが勝てば茶道部は認めない、という条件があるではないか」

茶道部が勝てば公式の部として認められるが、ただそれだけで他に利点はない。

かたや、生徒会の方は勝てば茶道部を許可しないという点と、元親を獲得出来るという点で2つの利益があると言える。

「そっかー、そうなると条件的には茶道部が1つ、ウチが2つ出してるってことになるね」

腕を組んで考え込んでいた佐助が声を上げた。余計なことを、と言いたげな半兵衛は顔を歪ませている。

しかし、両者の公平を期するなら、元就の言う通りにしなくてはならない。

アンフェアなやり方をして、後からクレームを出されても面倒かと考えた半兵衛は、元就に条件の内容を訊ねた。

「……君の出す条件はなんだい、元就くん?」

「我らが勝てば生徒会から1人茶道部に入部してもらう、というものだ」

元就の発言に、生徒会の面々はざわついた。自分たちが負ければ、強制的に1人茶道部へと入部しなければならない。

皆、そんな条件を出されるとは思っていなかった。ただ元就の提案する条件は、生徒会の出した条件と均衡がとれているとも言える。

この元就の条件を呑むことによって、如何なる利益不利益が出るか。しばらく黙って考え込んでいた半兵衛が口を開いた。

「会長はダメだね。僕も忙しいから部活に入る余裕なんてないよ」

「会計はどの部にも属しちゃダメって聞いたから、俺様パスね。真田の旦那は既に空手部に入ってるからねぇ」

「ってことは……hey、慶次!」

半兵衛、佐助、政宗から順繰りに視線を向けられた慶次は、自らを指差して困ったような笑顔で戸惑っていた。

慶次は他の生徒会役員に比べて、特に重要な役職に就いているわけでもない。だから、必然的に白羽の矢が立ったのである。

半兵衛が前に言っていたように、元親に断られたから慶次を生徒会に誘ったという話もあながち間違っていないのかもしれない。

自分の置かれた立場が非常に危険だと理解した慶次は、慌てて3人に抗議し始めた。

「ちょ、ちょっと待った。なんで俺が茶道部なんかに……」

「慶次くん、君はあまり働いてないだろう?」

「うん、慶ちゃんはただ居て何か食べてはそこに居るだけ、って感じかな?」

「慶次、テメーの尊い犠牲は忘れねぇぜ!」

3人からの容赦ない言葉に、慶次は床に両手をついて項垂れた。生徒会からの生け贄は問答無用で決定した。

元就としては部員を増やして、ザビーのために茶道部を発展させられれば良いので、誰が来ることになっても構わない。

それに、単純かつ単細胞で扱いやすい前田慶次が入部するならば、元就も洗脳など色々とやりやすい部分もある。

茶道部からは元親、生徒会からは慶次を差し出すという条件が加えられ、はないちもんめ式茶の湯対決の幕が開けることとなったのである。


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