それは、1つの小振りなカボチャが引き金となった出来事であった。



もういくつ寝るとハローウィン



本格的に秋風が吹き、寒さを少しずつ感じ始めた10月の半ば頃。伊達政宗は自室で、バイトに行く準備をしていた。準備といっても大層なことをする必要もないので、のんびりと動いていたのである。

その時、玄関を叩く音と、宅急便ですという快活な声が聞こえてきた。出掛ける前で良かった。政宗が部屋を出たら、この部屋も隣の202号室も無人になってしまう。珍しく、他の連中もそれぞれ外出しているのだ。

荷物を受け取り、判子を押して、宅配人を見送る。荷物の差出人欄には片倉小十郎と書かれていた。すぐに、政宗の脳裏に野菜という言葉が浮かび上がった。それ以外は絶対にない。そんな確信の元、政宗は箱を部屋に運び込んだ。

箱を開いて中を見ると、やはり思った通りの中身であった。旬の野菜が一杯に詰められている。これでしばらくは食事に困ることもないだろう。給料日前はかなり厳しい食生活を送らねばならない201号室の住人は、野菜を送ってくれる小十郎を救世主のように考えている――政宗を除いて。

とにもかくにも、小十郎からの野菜は有り難い。何が入っているのか確認するため、政宗は箱をガサゴソと漁る。ナスやジャガイモに混じって、少し小さめのカボチャが入っているのを見つけ、政宗は思わず口笛を吹いた。

もうすぐハロウィンだなんだと、世の人々は騒いでいる。そんな流行に飛び付くつもりはないが、折角カボチャがあるのだからハロウィン気分を味わうのも良いかもしれない。慶次というお祭り好きなヤツもいることだし、と政宗はカボチャを片手に考えていた。

続いて、箱に同梱されていた小十郎からの手紙を流し読む。大体、健康に関することと野菜に関することしか書かれていないので、それほど真剣に読む必要はない。しかし、手紙の最後の方に書かれていた一言がとても気になった。

――カボチャは煮付けが最高です。

小十郎の声で再生されたその言葉と、小十郎のカボチャを見たことによって、政宗は無性にカボチャの煮付けが食べたくなったのだ。昔、小十郎が時々作ってくれたので食べてはいたが、最近はほとんど食べていない。小十郎はあの見た目にも関わらず、なかなか料理が上手い。野菜料理は特に上手い。

そんな小十郎の作ったカボチャの煮付けを思い出していると、思わず腹が鳴った。帰ってきたら自分で調理するか、それとも佐助に頼むか。味付けの上手い佐助に頼んだ方が良いだろう。皿に盛られ、ほこほこと湯気を立てているカボチャの煮付けを想像すると、今日の夕飯が待ち遠しくなる。

佐助に頼むのを忘れないよう、カボチャを取り出してちゃぶ台の上に置いておくことにした。先ほどのハロウィンのことなど、遥か彼方に消え去っていた。

やっぱ秋はカボチャの煮付けだよな、と意味のないことを呟きながら、政宗は201号室を出ていったのであった。



その数分後。ふんふんと鼻歌を歌いながら上機嫌でドアを開けて入ってきたのは、前田慶次であった。

今日は何も予定がなかったので、街中をブラブラと歩いていたが、特にコレといった出来事もなく帰ってきたところである。

ふと、その視線の先に、見慣れない物があった。カボチャだ。何故、こんなものがこんな所に置かれているのだろうか。ちゃぶ台の上に置かれているカボチャを見て、慶次がまず思い出したのは、もうすぐハロウィンだということであった。

ハロウィンだよハロウィン、と肩に乗っている夢吉に笑いかける。お祭り騒ぎが大好きな慶次らしい喜びようである。どっかりとちゃぶ台の前に腰を下ろし、カボチャを手に取った。

自分以外はまだ誰も帰って来ていない。皆が帰って来る前にハロウィンの準備をしておくかな、と慶次は考え、カボチャをちゃぶ台の上に戻した。祭というのは、何よりもまず下準備が必要なのだ。

しかし、そんな慶次の計画に早速1つの問題が持ち上がった。

ハロウィンの時には、カボチャをどうするのだったか。ハロウィンという行事があるのは知っていても、あまり馴染みがないため、何をするのかいまいち分からなかったのだ。トリック・オア・トリートという合言葉も、ハロウィンの日が10月31日であるということも分かっていなかった。

カボチャに何かするんだったよな、と激しい勘違いをしたまま慶次は立ち上がった。何をするのか。うろ覚えではあるが、何となく記憶にある。慶次は201号室と202号室を繋ぐ壁の穴を潜っていった。

202号室に侵入して持ってきたのは、数本の割り箸。おもむろにそれを割り、さらにそれを真ん中から勢いよく2つに折る。そうして出来た4本の割り箸の成れの果てを、慶次はカボチャの底部分に差したのであった。

皮も固ければ中身も固いカボチャに割り箸を差し込むのは、面倒で力のいる仕事である。手先の器用な元親がいれば、すんなり出来たかもしれない。

見かねたらしい夢吉の協力もあって、途中で折れるもことなく、なんとか割り箸を差すことが出来た。慶次は満足そうな表情で、割り箸の刺さった部分を下にしてカボチャを立たせた。

慶次の記憶にあったカボチャにする何かとは、割り箸を刺して立たせることであった。お盆の風習とハロウィンが思い切り混ざってしまっている。

こんな感じだったっけ。にへらと笑いながら夢吉を見ると、手を叩いて喜んでいる。多分、これで良いのだろう。

一仕事を終えて機嫌よくカボチャを眺めていると、突然慶次の携帯電話が鳴り出した。何事か、と慌てて電話に出ると、聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。叔母であるまつの声だ。

何か頼みがあるらしい。詳しく話を聞くと、買い物に来たは良いが買い込み過ぎて1人では持ちきれないため、手伝いに来て欲しいとのことだった。いわゆる荷物運びという役目を拝命したのである。

慶次にとって頭の上がらない叔母からの依頼であり、断る理由も特にない。んじゃ行くよ、と軽く答えて電話を切った。

出動だ夢吉、と相方に声を掛けて慶次は玄関に向かった。ちゃぶ台に残された四つ足のカボチャに対する関心は、すっかり失せてしまったようだ。愛用の黄色いスニーカーを履きながら、慶次は部屋を出て行った。




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